1960年　咸臨丸太平洋横断

日本人の操る蒸気船が太平洋横断

咸臨丸の太平洋横断

　のちの明治の時代になり、この１隻の小さな蒸気船がもたらした財産は大きく花を開きます。幕末の小さくても、大きな快挙です。

本来任務

日米修好通商条約の批准書交換

　咸臨丸は日米修好通商条約の批准書交換のため、幕府はアメリカに使節団をアメリカ軍艦に乗せて派遣しました。新見正興首席全権が主役のはずでした。咸臨丸は、その護衛の任務に当たるという名目で用意された軍艦です。
　ところが、主役の座は咸臨丸と勝海舟にすべて持っていかれてしまいました。

三浦半島の歴史：人物事典・勝海舟

小さな蒸気船

咸臨丸

　咸臨丸は、徳川幕府がオランダに発注して建造された軍艦です。木造で３本のマストを持つ蒸気船です。洋式の軍艦としては、外輪船の観光丸に次ぐ２番艦となりますが、洋式のスクリューを装備した船としては初の軍艦です。海軍伝習生の技術をテストするために仕立てられた蒸気船でもあります。
　性能に関しては諸説あり、詳細はわかっていません。排水量は６２５トン、全長５０ｍ、全幅７．３ｍ、最大速度６ノット（時速１０キロ）、大砲１２門を装備していました。戊辰戦争にも参加しますが、すでに性能が劣っており輸送船として利用されていました。
　乗組員となったのは、海軍伝習生も航海実習が終わったばかりの初心者ばかりでした。

三浦半島の歴史：1868年・戊辰戦争

軍艦奉行木村喜毅提督

軍艦操練所教授片勝海舟艦長

勝海舟

　軍艦奉行木村喜毅を提督として、軍艦操練所教授片の勝海舟を艦長とする軍艦咸臨丸が、日本発の太平洋横断航海を達成しました。
　１８６０年３月１７日、サンフランシスコに入港しました。

ジョン万次郎や福沢諭吉も乗船

福沢諭吉

　太平洋横断は、ペリー来航後わずか７年後のことでした。
　歴史上にさん然と輝く壮挙となりましたが、収穫はそれだけではありませんでした。通訳として乗船していたジョン万次郎や、木村喜毅提督の従者として乗船していた福沢諭吉もおり、最新技術・科学知識の導入や、英語の発展に貢献することとなりました。

三浦半島の歴史：人物事典・咸臨丸人物事典

アメリカに着いた咸臨丸

木村喜毅提督

　アメリカ市民は、咸臨丸を一目見ようとたくさん集まりました。しかし、木村喜毅提督は日本の慣例に従って女性の乗船を断りました。
　それでも諦め切れなかったアメリカ人女性は、男装して終結し、集団で乗船しました。
　これを見た木村喜毅提督は慌てることもなく、男装した女性たちが見学を済ませて船を降りる際、それぞれに紙の包みをプレゼントしました。あとでその包みを開けてみたところ、カンザシが入れてありました。
　木村喜毅提督のイキな対応を知ったアメリカ市民は、ますます日本人サムライと、咸臨丸に興味を持ちました。

あるサムライの手記

　咸臨丸に乗船した武士の手記には、「礼を冠（帽子のこと）を脱するを相礼とす。手を取りて三度上下する（握手のこと）をねんごろとす。女は口を吸う（キスのこと）をねんごろ第一とす」と書かれてありました。
　アメリカとの習慣の違いに驚いた、当時の武士たちの気持ちが伝わってくるとても優れた手記ですね。

そのころ遣米使節団

本隊は５月１４日にワシントン着

小栗上野介

　本隊である遣米使節団は、ハワイに寄港した後、サンフランシスコを経て南下しました。パナマ地峡を汽車で横断して、アメリカ軍艦に登場し、現地時間の５月１４日にワシントンに到着しました。日本を出発してから、すでに３ヶ月が経過していました。
　大統領ブキャナンに会見し、無事に条約批准を済ませています。

三浦半島の歴史：人物事典・小栗上野介忠順
三浦半島の歴史：咸臨丸こぼれ話

アメリカ見聞

　使節団は事前に日本語訳の世界地理書を読み、アメリカの政治、社会制度などの知識を持ってはいましたが、長い鎖国のために、彼らの異国体験は驚きの連続でした。
　息つく暇もなく、工場、学校、博物館、その他の施設見学、芝居見物、パーティーへの参加などをこなしました。
　国会議事堂を見学した使節に一人は、議員たちが身振り手振りを交えて大声で討論をする様子を見て、「まるで日本橋の魚市場のようだ」と日記に記しています。アメリカの新聞記事によれば、使節団のワシントン滞在中、連日のように議会に傍聴にやってきた熱心な随員もいたといいます。
　こうして見聞きしたこと、体験したことが、のちの明治時代になって新しい国造りに役立てられました。