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 劇症肝炎
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劇症肝炎の概要は?
おもな症状
  肝炎発症から8週間以内に見られる黄疸の増強
意識障害・肝性脳症
腹水
症状が似ている病気
  慢性肝炎のウイルス重感染による重症肝炎
B型肝炎ウイルスキャリア発症の重症肝炎
亜急性肝炎
起こりやすい合併症
  多臓器不全(心不全呼吸不全腎不全、播種性血管内凝固症候群など)

劇症肝炎ってどんな病気?
肝機能不全と意識障害
  イメージ画像 急性肝炎の中でも特に重症のもので、肝細胞の破壊が急激に進行し、高度の肝機能不全、肝性脳症(かんせいのうしょう)や肝性昏睡(かんせいこんすい)と呼ばれる意識障害を特徴とするものを、劇症肝炎と呼びます。
 日本では診断基準に従って、劇症肝炎を診断します。
 劇症肝炎診断基準 
肝炎のうち初発症状発現後8週間以内に高度の肝機能障害に基づいて肝性昏睡U度以上の脳症を来たし、プロトロンビン時間40%以下を示すものとします。
そのうちには、発症後10日以内に脳症が発現する急性型と、それ以降に発現する亜急性型があります。
急性型には劇症肝炎が含まれ、亜急性型には亜急性肝炎が含まれます。
先行する慢性肝疾患が存在する場合は、劇症肝炎から除外します。ただし、B型肝炎の無症候性キャリアからの急性増悪例は劇症肝炎に含めます。
薬物中毒、循環不全、妊娠性脂肪肝、ライ症候群など、肝炎をともなわない肝不全は劇症肝炎から除外します。
肝性脳症の昏睡度分類は犬山分類に基づきます。
成因分類は「難治性の肝疾患に関する研究班」の指針に基づきます。
プロトロンビン時間が40%以下を示す症例のうち、肝性脳症が認められないか、昏睡T度以内の症例は急性肝炎重症型に分類します。
初発症状出現から8週間〜24週間に肝性昏睡U度以上の脳症を発現する症例では、遅発性肝不全に分類します。
肝機能不全と意識障害
   診断する上で重要なのは、発熱、風邪様症状、倦怠感(けんたいかん)、食欲不振などの肝炎様症状が現れてから8週間以内(56日以内)に肝性脳症・意識障害が現れること。
 そして、高度の肝機能不全を表す血液生化学検査である、プロトロンビン時間が40%以下を示すことです。
急性型と亜急性型
   肝性脳症の出現までの日数によって、2つの臨床病型に分類されます。
 急性型劇症肝炎では、10日以内に肝性脳症が現れます。
 亜急性型劇症肝炎では、11日〜56日以内に肝性脳症が現れます。
予後
   2つの臨床型に分類するのは、最終的な予後が異なるためです。
 肝移植例を除く内科的な救命率は、急性型で約50%、亜急性型で約20%になります。
 原因によっても救命率は異なり、A型肝炎では約55%、B型肝炎では約35%、非A型非B型肝炎では約25%、薬剤性肝炎では約35%、不明の場合は約40%になります。
患者さんは減少
   日本では、1980年代では年間3000例以上の患者さんがみられましたが、現在では年間400例前後まで減少しています。

劇症肝炎の原因は?
ウイルスと薬物アレルギー
  イメージ画像 劇症肝炎のおもな原因は、ウイルスと薬物アレルギーです。
 まれに、自己免疫性によるものもみられます。
原因のウイルス
   ウイルスには、肝炎ウイルスと、肝炎ウイルス以外のウイルスがあります。劇症肝炎の原因としては、A型肝炎ウイルスB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスがほとんどです。
 日本国内では、B型肝炎ウイルスによるものがもっとも多く、約44%を占めます。A型肝炎ウイルスが約13%、薬剤性劇症肝炎が約3%、非A型非B型肝炎ウイルスが約39%になります。
 現在でも、原因不明の劇症肝炎も多くみられ、約1%は原因不明です。最近では、原因不明の劇症肝炎が増加傾向にあります。
既知の肝炎ウイルスでない劇症肝炎
   既知のウイルスが陰性で、薬物なども否定された場合、非A非B非C型と呼びます。
 最近、E型肝炎ウイルスによる劇症肝炎も報告されています。
 非A非B非C型や、E型肝炎ウイルスでは、海外渡航歴のない国内に在住する人からの発病として注目されています。
 非A非B非C型の場合、原因となった肝炎ウイルスの検索が必要になります。
サプリメントが原因になることも
   最近では、ダイエットに効果があると謳われた痩身茶(そうしんちゃ)などによる劇症肝炎が報告されています。
 健康食品、サプリメントなど、安易な摂取には注意が必要です。

劇症肝炎とウイルスの遺伝型
原因となる肝炎ウイルス
  イメージ画像 劇症肝炎の原因となる肝炎ウイルスは、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスについて、ウイルスの遺伝子型と病態との関連が検討されています。
B型肝炎ウイルス
   B型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子型(サブタイプ)は、現在までにA〜Hの8つに分類されています。これらの遺伝子型の世界的な分布には特徴があります。
 日本を含む東アジアでは、遺伝子型Bと遺伝子型Cが中心となっています。ヨーロッパと地中海沿岸流域では、遺伝子型Aと遺伝子型Dが広く分布しています。アメリカとフランスでは、遺伝子型Gが分布しています。西アフリカでは遺伝子型E、南アメリカでは遺伝子型Fが中心です。
 日本に多い遺伝子型Bと遺伝子型Cは、沖縄、東北地方を除く本州では、大部分が遺伝子型Cです。沖縄では遺伝子型Bが半数以上になり、東北地方では中間を示します。
遺伝子型による進行の違い
   細菌の研究では、遺伝子型の違いが肝病態の進行と密接に関係していることが明らかになってきました。
 B型劇症肝炎についても遺伝子型が調査されていますが、多数例で検討した成績が少なく、地域性もあるため、どの遺伝子型が劇症肝炎を起こしやすいか明確ではありません。一般的に、劇症肝炎では遺伝子型Bの方が、遺伝子型Cより多い傾向にあります。
 慢性肝疾患では、遺伝子型Cの方が、遺伝子型Bよりも多いです。

劇症肝炎の症状は?
初期症状
  イメージ画像 劇症肝炎に特徴的な症状は、肝性脳症・意識障害です。初期症状では、通常の経過をたどる急性肝炎と同じです。
 初期症状は発熱、風邪様症状、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などが最初に現れます。
 尿の色が濃くなって、黄疸(おうだん)が現れるようになります。
意識障害が現れるまでの日数
   意識障害出現までの日数はさまざまです。
 急性型と亜急性型に分類されます。急性型のうち、肝炎様症状に続いて意識障害が2日〜3日で出現する場合は、超急性型と呼ばれます。
亜急性型の特徴
   亜急性型では、初期にはあまり症状がなく、次第に黄疸や腹水が増加した後、急に意識障害が現れることが多くみられます。
肝性脳症
   肝性脳症の程度は、昏睡度分類に従って診断します。
 昏睡T度の判定は、専門家でも難しい場合があります。
 昏睡U度になると、誰が見てもわかるようになります。興奮状態、せん妄状態となり、体動が激しくなります。
 肝性脳症の昏睡度分類 
昏睡度 精神症状 参考事項
昏睡T度 睡眠-覚醒リズムの逆転
多幸気分、時に抑うつ状態
だらしなく、気に留めない状態
回顧的にしか判定できない場合が多い
昏睡U度 指南力障害、物を取り間違える
お金を撒く、化粧品をゴミ箱に捨てるなどの異常行動
普通の呼びかけで開眼し会話ができる傾眠状態
無礼な言動があっても、医師の指示に従う態度を見せる
興奮状態がない
尿便失禁がない
羽ばたき振戦がある
昏睡V度 興奮状態やせん妄状態をともない、反抗的態度をみせる
ほとんど眠っている嗜眠傾向
外的刺激で開眼するが、医師の指示には従わない、または従えない、簡単な命令には応じる
患者の協力が得られた場合、羽ばたき振戦がある
指南力は高度に障害
昏睡W度 昏睡、完全な意識の消失
痛み刺激に反応する
刺激に対して払いのける動作、顔をしかめるなどがみられる
昏睡X度 深昏睡
痛み刺激にもまったく反応しない
 

劇症肝炎の診断は?
さまざまな検査を行う
  イメージ画像 血液生化学検査では、肝機能検査、腎機能検査、血液凝固検査が行われます。
 プロトロンビン時間の測定は必須検査です。
 肝臓で合成される凝固因子も含む蛋白質、脂質の状態を反映する検査項目(アルブミン、コリンエステラーゼ、コレステロール)、ビリルビン抱合能(総ビリルビンと直接型ビリルビンの比率)、ヒト肝細胞増殖因子も、重要な検査項目になります。
肝炎ウイルスマーカー
   血清トランスアミナーゼ(AST-GOT、ALT-GPT)は、肝機能障害の指標として有名ですが、劇症肝炎の診断には役立ちません。
 原因ウイルスを探るため、肝炎ウイルスマーカーも検査します。
画像検査
   CT検査、超音波検査で、肝臓の萎縮の有無を検査することも有効です。
検査結果を総合的に診断
   それぞれの検査結果は、どの時点で医療機関を受診したかで異なります。
 急性型と亜急性型では、肝性脳症が発現時の肝機能検査値に違いがみられます。
 診断が確定するまでに、進行を予知し、治療を開始することがきわめて重要となります。

劇症肝炎に似ている病気と合併症
劇症肝炎・劇症肝不全・急性肝不全
  イメージ画像 劇症肝炎は、劇症肝不全(げきしょうかんふぜん)・急性肝不全(きゅうせいかんふぜん)の中に含まれる病気です。
 日本では、ウイルスと薬剤が原因で急性肝不全を起こす肝炎のことを、劇症肝炎と呼んできました。しかし、欧米では、ウイルスや薬剤の原因以外にものも含めて、劇症肝不全と呼ぶのが一般的です。
原因
   劇症肝炎の原因となるものは、うっ血性心不全、虚血など循環不全によるもの。妊娠性のもの。ウィルソン病と呼ばれる代謝性のもの。白血病悪性リンパ腫による腫瘍細胞の肝内浸潤(かんないしんじゅん)による血液疾患によるものなど、多岐に渡ります。
合併症
   劇症肝不全の時の重い合併症は、脳浮腫、消化管出血を含む全身の出血傾向、腎不全、感染症があります。全身の出血傾向は、DIC・播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)によることが多いです。
 これらを合併し、合併数が多くなるほど、救命率は低下します。

劇症肝炎の治療法は?
肝性脳症の改善
  イメージ画像 劇症肝炎の治療法は、原則として、肝性脳症の改善を図り、破壊された肝細胞が再生されるまで血漿交換(けっしょうこうかん)などで人工肝補助を行い、腎不全、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)、感染症、脳浮腫などの合併症の発生を防ぐことです。
 劇症肝炎の内科的治療法 
全身管理
安静度 絶対安静
栄養管理 原則として絶飲・絶食、中心静脈栄養管理
呼吸管理 必要に応じて気管内挿管、人工呼吸器装着
循環管理 心臓・肺・腎臓の機能維持
中心静脈圧測定、スワン・ガンツカテーテル留置、アルブミン、時にドーパミン、ドブタミン持続点滴
特殊療法
人工肝補助 血漿交換、持続血液ろ過透析
肝細胞保護 プロスタグランジン(E1、E2、I2)、インターフェロン、シクロスポリンA、副腎皮質ステロイド薬、ウリナスタチン
肝再生促進 グルカゴンインスリン、シクロスポリンA
合併症対策
肝性脳症 ラクツロース、フルマゼニル
脳浮腫 頭蓋内圧モニタリング、頭部拳上、マニトールあるいはグリセロール
腎不全 血液透析、ドーパミン、ウリナスタチン
消化管出血 ヒスタミンH2受容体拮抗薬
血液凝固線溶異常 アンチトロンビンV製剤ほかの蛋白分解酵素阻害薬
(メシル散ガベキサート、メシル酸ナガモスタットなど)
低血糖 血糖値モニタリング、ブドウ糖注射
感染症 血液・尿・喀痰の頻回培養、抗生剤・抗菌薬・抗真菌薬の投与
人工肝補助療法
   日本の劇症肝炎の集学的治療の中心となる治療法です。
 人工肝補助は、腎不全治療のために多くの医療施設で設備されている血液浄化装置が使用されます。血液浄化療法はきわめて効果的ですが、高額医療でもあり、保険上の厳格な回数制限があります。
 肝細胞の広範な壊死、肝機能の低下によって体内に貯まったアンモニアなどの肝性脳症の原因となる中毒性物質の除去、不足した凝固因子(ぎょうこいんし)などの必須物質を補充することを目的としています。
血漿交換法(けっしょうこうかんほう)
   患者さんの血液を体外に取り出し、血漿成分を血球成分から分離除去し、新たに健康な血漿(新鮮凍結血漿)を加え、体内に戻す治療法です。
 血液凝固因子、体液に溶けている蛋白質のアルブミンなどを補充し、凝固異常などを補正することが可能です。血漿交換法だけで、肝性脳症に対する覚醒作用は不十分とされています。
 また、血液製剤を大量に使用するため、感染の危険性も理解しておかなくはいけません。
血液透析ろ過療法
   短時間、高流量で実施する血液透析ろ過(HDF)と、循環動態の安定化を狙って24時間かけて実施する持続血液透析ろ過(CHDF)が行われます。
 意識障害の原因と推定される中分子や低分子の毒素物質も除去することが可能なため、血漿交換と併用して行われます。
抗ウイルス療法
   原因ウイルスが特定された場合、抗ウイルス療法も行います。
その他の治療法
   原因や症状に応じて、人工肝補助療法のほかにステロイド療法、血液凝固を阻止するアンチトロンビンV製剤と合成蛋白分解酵素阻害薬を用いた抗凝固療法、脳圧を下げるマンニトールという薬剤による脳浮腫対策、肝臓の再生促進対策など、内科的治療を厳重な全身管理下で行いつつ、肝臓の再生を待ちます。
 最近では、B型肝炎による劇症肝炎に対して、ラミブジンやエンテカビルが使用できるようになり、注目されています。
 肝臓の再生が期待できない場合、肝移植の選択が検討されます。亜急性型劇症肝炎では、多くの場合、再生が期待できず、肝移植でしか救命できないのが現状です。

劇症肝炎の新しい治療法
肝移植
  イメージ画像 欧米では劇症肝炎の治療は肝移植がメインです。日本でも肝移植を受ける患者さんが増加していますが、ドナーや医療費の問題も含めて、多くの問題があります。
 内科的治療や人工肝補助療法は、肝移植までの橋渡しとして行われています。
人工肝補助療法
   ヒト肝ガン細胞、またはブタの肝細胞を組み込んだ装置を使用する生物学的人工肝補助は、外国では行われています。
 しかし日本では、使用することができません。
内科的治療
   肝再生を促進する治療法が待たれています。
 肝再生促進因子(かんさいせいそくしんいんし)を使った遺伝子治療が研究されていますが、まだ実用化には至っていません。
抗ウイルス療法
   ウイルス性劇症肝炎に対する治療法では、B型肝炎ウイルスに対して核酸アナログ製剤による治療が期待されています。
 ラミブジン、エンテカビルなど核酸アナログ製剤は、すでにB型慢性肝炎の治療薬として広く使用されています。B型急性肝炎の重症化例、劇症化が疑われる例に対しても効果が期待されています。
 しかし、抗酸アナログ製剤の投与量やいつまで投与するかの期間に関して、必ずしもコンセンサスが得られていません。
治療結果の比較
   HBVキャリアや慢性肝炎からの急性増悪による劇症肝炎を含む重症肝炎例に対しては、インターフェロン単独投与群に比較して、核酸アナログ製剤(ラミブジン)併用群で、血中B型肝炎ウイルスDNA量の低下は良好でした。
 しかし救命率は両群で差が認められませんでした。
早期治療が大切
   高度の黄疸や、プロトロンビン時間が著しく低下している場合、ラミブジンを使っても効果に限界がある可能性があります。重症化が疑われる例では、できるだけ早期に投与する必要があると考えられます。
 最近では、B型劇症肝炎による肝移植でも、手術後に核酸アナログ製剤(エンテカビル)が使用されています。

劇症肝炎かなと思ったら?
すぐに治療開始
  イメージ画像 肝性脳症が出現したら、すぐに血漿交換などの人工肝補助療法を開始しなければなりません。
総合的治療が可能な病院へ
   明らかな意識障害がなくても、肝機能検査で著しい異常が認められた場合、肝臓専門医と相談しながら治療を行ってください。できるだけ早期に、総合的な治療が可能な医療機関へ移送することが重要です。
重症型急性肝炎から劇症肝炎へ
   急性肝炎で、昏睡T度以内かプロトロンビン時間が40%以下を示す重症型では、劇症肝炎に移行する頻度は約30%です。
支援が受けられます
   劇症肝炎は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。療養生活の支援などが行われています。
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