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穿通性心臓外傷(せんつうせいしんぞうがいしょう)とは、鋭利な物体、弾丸などによって、心筋、心膜、心室中隔(しんしつちゅうかく)、弁・腱索(けんさく)・乳頭筋(にゅうとうきん)、冠動脈などに損傷を起こすものです。 圧迫などによって心臓が潰れた状態は、非穿通性心臓外傷といいます。 多くは、血胸(けっきょう)、心タンポナーデから、急激に死に至ります。
穿通性心臓外傷の程度は、心損傷の部位と程度、心膜損傷の程度によって左右されます。 心膜損傷が大きくて、心膜腔内へ流出した血液が自由に胸腔内へ流出するものでは、血胸型を示します。また、心膜損傷が小さくて凝血塊(ぎょうけつかい)によって容易に閉塞してしまうものでは、心タンポナーデ型を示します。 血胸と心タンポナーデが共に起こる場合もあります。
胸部を鋭利な刃物などで刺される刺創(しそう)、切創(せっそう)、銃の弾丸による銃創(じゅうそう)にともなってみられる外傷です。 まれなケースでは、労災事故などで金属片が前胸部に飛び込んできたり、棒状の物体が胸部に突き刺さって発生することもあります。
穿通性外傷の多くは、心臓外傷危険域と呼ばれるエリアに創・傷があります。心臓外傷危険域とは、右鎖骨の内側3分の1〜左鎖骨中線(左乳頭を通る線)の胸部のエリアになります。 意識障害、頻脈(ひんみゃく)、頻呼吸、四肢冷感、冷汗など、ショック症状を示します。
心タンポナーデに陥っている場合、血圧低下、静脈圧上昇、心音減弱のベックの三微がみられます。 また、頸静脈が膨れる頸静脈怒張(けいじょうみゃくどちょう)、呼吸運動にともなって脈拍が大きくなったり小さくなったりする奇脈(きみゃく)などがみられます。
まず、心臓外傷危険域の創(傷)を診ます。 理学的所見、胸部エックス線、胸部CT、心電図、超音波などの検査によって診断を行います。 一刻の猶予もなく検査を進め、診断を確定する必要があります。そのため必要最小限の検査を手際よく行うことが極めて重要です。
穿通性心臓外傷では、緊急手術が絶対に必要になります。迅速かつ適切な外科治療以外では、救命する方法はありません。 重度のショック状態にあり、手術室までの移送が困難な場合には、救急室(ER)で緊急開胸を行い、心縫合手術が行われます。
心タンポナーデを起こしている場合には、心膜内に溜まった血液を排液するため、心嚢に針を刺す心嚢穿刺(しんのうせんし)、管を挿入して排液させる心嚢ドレナージなどを行い、一時的に状態の改善を図ります。 心タンポナーデの治療に引き続き、開胸手術を行うこともあります。
包丁、ナイフ、矢などが前胸部に刺さったままの場合には、これらを絶対に抜いてはいけません。 刃物を抜くことで、出血がより大量になり、死に至るケースがあるからです。 刺さったままの刃物は、周囲にタオルや手拭いを巻き付け、刃物が動かないように固定しておく必要があります。
穿通性心臓外傷は、もっとも緊急を要する外傷です。大至急、救急車の手配をしなければいけません。