そらいろネット > 家庭の医学 > 脳・神経・筋の病気 > 脊髄空洞症
脊髄は、脳から腰の上部へと連続する中枢神経の一部です。 脊髄の中心部に脳脊髄液(のうせきずいえき)がたまった空間ができることによって、脊髄を内側から圧迫し、さまざまな神経症状があらわれる病気です。 発症には男女差はなく、あらゆる年齢層にみられますが、20歳〜40歳で発症することが多いです。非常にゆっくりと進行する病気です。
脊髄の中心部には中心管と呼ばれる管がありますが、この中心管と交通のある交通性空洞症と、交通のない非交通性空洞症に分類されます。 この空洞の形成にともなって脊髄の機能が障害され、症状が現れた場合を脊髄空洞症と呼びます。
空洞のできる詳しいメカニズムは、まだ良くわかっていません。 脳や脊髄のまわりには脳脊髄液という液体が流れています。脳の中にある脳室や脊髄の中心部にある中心管にも脳脊髄液が流れています。この通過障害が原因になりますが、脊髄の周りへの髄液の流れが障害された場合、脳脊髄液が中心管に流れてしまい、中心管が拡大して空洞を形成することがあります。
脊髄空洞症を原因によって大きく分類すると、以下の4つに分類できます。
症状の現れ方は、空洞の大きさ、長さによって異なってきます。 頸髄(けいずい)に発生することが多いため、上肢や手の痛み、または感覚障害で始まることが多いです。上肢の筋力低下に気付くこともあります。空洞が拡大すると、手や腕の麻痺、筋萎縮(きんいしゅく)、歩行障害、さらには排尿や排便の障害が出てきます。 まれなケースでは、皮膚の栄養障害による手の乾燥、腫れ、爪の変形が生じることもあります。
上肢にみられる感覚障害には特徴があり、温度や痛みの感覚である温痛覚(おんつうかく)は障害されますが、触覚・振動覚・位置覚などの深部感覚は保たれます。このような症状は、解離性感覚障害(かいりせいかんかくしょうがい)と呼ばれます。 そのため、腕を強くつままれた時に、触れられたという感覚はあるのに、痛みを感じないことがあります。また、火傷をしても熱さを感じないということが起こります。
空洞が延髄(えんずい)に及ぶ延髄空洞症では、顔面の感覚障害や嚥下障害が起こります。 このため、食事の際に飲み込みが悪くなったり、飲み込んだ水分が誤って気管に入る誤嚥(ごえん)が起きることがあります。
脊髄空洞症は頸髄に好発するため、症状は上肢にみられるのが一般的です。空洞は脊髄の中心部にできるため、最初は上肢のしびれ、痛み、感覚異常などがみられます。 感覚異常は障害髄節の支配レベルに一致して宙吊り方に現れるのが特徴です。解離性感覚障害と呼ばれ、温痛覚は障害されますが、触覚および振動覚などの深部感覚は保たれます。 解離性感覚障害が起こるのは、温痛覚の神経線維が脊髄中心部を通るのに対して、触角や深部感覚の神経線維は中心部ではなく、脊髄の後側にある後索を通るためです。
空洞が頭側(上側)に拡大すると延髄空洞症になり、尾側(下側)に拡大すると胸髄(きょうずい)、腰髄(ようずい)にも空洞ができます。 延髄空洞症では顔面の感覚障害や構音・嚥下障害が起こります。胸髄空洞症、腰髄空洞症では、感覚障害の範囲が体幹や下肢にも広がることになります。
単純エックス線写真で、脊柱管前後径の拡大がみられることがあります。 近年のMRI検査の普及に従い、診断には頸椎のMRI検査が役に立ち、これでほぼ診断がつきます。 MRI検査では特殊な撮り方をすると脊髄液の流れを画像化することができ、これも診断や治療方法を決める際に有効です。 また、脊髄腫瘍に合併するタイプの脊髄空洞症では、造影剤を用いたCT検査を行います。
感覚障害などの症状に対しては、薬剤による対症療法を行います。 キアリ奇形にともなう脊髄空洞症の場合は、大後頭部孔減圧術(だいこうとうこうげんあつじゅつ)と呼ばれる外科的手術を行います。この手術は頭から首に移行する部分で脊髄周辺の空間を広げ、髄液の流れを良くする手術です。多くの例で空洞が縮小して、症状も軽快します。
症状がある程度以上進行してしまったあとで手術をしても有効でない場合が多いので、早期に診断して治療することが大切です。 しかし根治的な治療法は、まだ確立されていません。
疑わしい症状の発言に気付いたら、近くの整形外科、もしくは脳外科を受診するようにしましょう。 MRI検査を行えば、診断は容易です。 脊髄空洞症が確定診断された場合は、脊椎、脊髄を専門とする医師への紹介を受けた方が良いでしょう。