そらいろネット > 家庭の医学 > 耳の病気 > 先天性難聴
遺伝性か、妊娠中に起きる何らかの影響によって、出生時に難聴がある場合を、「先天性難聴」と呼びます。
大半の先天性難聴では、原因は不明です。遺伝子の異常が原因となる場合もあります。 遺伝性疾患としては、難聴と同時に前髪の一部が白い前髪白色や、欧米人のように眼が青い青色虹彩(せいしょくこうさい)という特徴を持つ、ワールデンブルク症候群とう病気があります。
内耳が形成過程の途中で止まってしまったために起こる、内耳奇形(ないじきけい)があります。 内耳奇形では、エックス線や、CT検査などを行っても、蝸牛(かぎゅう)、前庭半規管(ぜんていはんきかん)の正常な形を観察することができません。
妊娠中に起こったウイルス感染が、難聴を引き起こす原因となることもあります。 母体の風疹ウイルス感染が胎児に移行して、難聴、白内障、心臓の奇形などを引き起こすことがあります。先天性風疹症候群(せんてんせいふうしんしょうこうぐん)と呼ばれています。 血族結婚、家庭内の難聴者の存在は、先天性難聴のハイリスク要因に含まれます。
大きな音にビックリしない、声を掛けても目を覚まさない、ガラガラなどのおもちゃの音に喜ばない、名前を呼んでも振り向かないなど、音の刺激に対して反応が乏しい場合は、両側に高度な難聴のある可能性があり注意が必要です。 2歳〜3歳になって、言葉の発達が遅れていることで、初めて見付ることも少なくありません。
音に対する検査を受ける子供の反応を観察して診断する方法と、行動の観察を必要としない診断方法の二通りがあります。
音に対する反応を観察する検査では、聴力の予備検査として子供を母親の膝の上に座らせます。そして、後方から太鼓、カスタネットなどを鳴らして、振り返るかどうかを検査します。 さらに子供の協力を得ることができれば、難聴の程度が評価可能な、条件詮索反応聴力検査を行います。
子供の行動の観察を必要としない検査方法には、聴性脳幹反応(ABR)と、耳音響放射(OAE)の二通りがあります。 聴性脳幹反応(ABR)では、新生児、幼児、小児の他覚的聴覚検査としてはもっとも信頼できる検査方法です。薬で子供が寝ている間に電極をつけ、カチカチという短いクリック音を聞かせた時の内耳の蝸牛から脳にいたる機能を誘発反応として記録したものです。 耳音響放射(OAE)では、音響反射で、内耳の機能を反映すると考えられています。
先天性難聴のうち、内耳の蝸牛が原因の感音難聴では、手術による聴力改善は期待できません。補聴器を装用し、残聴(ざんちょう)を利用した聴覚言語訓練が必要になります。 補聴器の装用効果が期待できない場合は、人工内耳による治療が行われることもあります。
音は外耳から鼓膜に達して、鼓膜の振動は3つの耳小骨(じしょうこつ)をへて内耳に伝えられます。ここまでの間に、なんらかの障害が生じていると、音がうまく内耳に伝わらなくなります。これを「伝音難聴」と呼びます。 内耳に伝えられた音の振動は、内耳のコルチ器という部分にある有毛細胞を振動させ、細胞内の電気的信号に変換されます。電気的信号に変換され、聞こえの神経に伝達し、さらに脳へと送られて音を感じることができます。内耳以降のレベルに障害が起こって生じる難聴を「感音障害」と呼びます。
難聴が伝音難聴か感音難聴かは、聴力検査で診断できます。耳にあてた受話器から音を聞いた時の聴力を「気導聴力」と呼びます。 耳の後に振動子(骨導受話器)をあて、直接頭蓋骨を振動させて測る聴力を「骨導聴力」といいます。 骨導聴力が良いのに気導聴力が悪い場合、外耳〜内耳にかけて異常があると考えられ、伝音難聴と診断されます。骨導聴力と気導聴力が同程度に悪ければ、内耳以降に異常があると考えられ、感音難聴と診断されます。
伝音難聴の原因は、耳垢(じこう)の詰まり、鼓膜の穿孔(穿孔)、中耳炎(滲出性中耳炎、急性中耳炎、慢性中耳炎、中耳真珠腫)、耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)、耳小骨連鎖離断(じしょうこつれんさりだん)、耳小骨奇形(じしょうこつきけい)、耳硬化症(じこうかしょう)などがあります。 基本的には、処置や手術で改善可能な難聴です。
感音難聴の原因は、内耳性難聴と、それ以降に原因のある後迷路性難聴(こうめいろせいなんちょう)とに分類されます。 内耳性難聴には、先天性難聴、騒音性難聴、音響外傷、突発性難聴、メニエール病、聴器毒性薬物中毒、老人性難聴、ウイルス感染症による難聴などがあります。 後迷路性難聴には、聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)、脳血管障害による難聴、脳炎などによる難聴、心因性難聴など、多彩な原因があります。
難聴で補聴器を用いる場合は、伝音難聴では非常に有効です。しかし、感音難聴では言葉のわかりやすさに一定の限界があります。
言語の習得には、生後3歳までが重要だと考えられています。それまでに難聴を発見し、補聴器をすぐに装用させること、言語刺激としての音を聞かせてあげることが不可欠です。 もし難聴が疑われるとき、言語の遅れが疑われるときは、耳鼻咽喉科への受診が必要となります。
難聴でもっとも有名なのは、ドイツの作曲家のベートーベンです。20代後半から難聴が始まり、晩年の約10年にはほぼ聞こえない状態となりました。原因は鉛ではないかと考えられています。 歌手の浜崎あゆみさんは、突発性難聴を発症し、左耳の聴力を失っています。 SPEEDのメンバーである今井絵理子さんの息子、礼夢(らいむ)君は先天性高度感音性難聴で音がほとんど聞こえない重度の障害を持って生まれました。