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走ったり、飛んだり、ボールを投げるなど運動時の膝の痛み 肩の痛み 初期では運動による痛みと考え放置してしまう傾向がある
骨髄炎 骨折 良性骨腫瘍
小さな力で骨折してしまう病的骨折
骨肉腫は代表的な骨の悪性腫瘍で、もっとも発生数の多い腫瘍です。 腫瘍細胞が幼弱な骨組織を作る能力を持っているのが特徴です。
日本整形外科学会では、全国の骨腫瘍の人の登録を行っていますが、毎年百数十例の骨肉腫の人が登録されています。すべてのガン発生数の何%に当たるのか明らかではありませんが、悪性骨腫瘍の発生率は10万人に対して0.8人と言われています。骨肉腫は悪性骨腫瘍全体の40%近くを占めています。しかし、胃ガンや肺ガンに比べて、発生数はきわめて少ないです。 原発性骨悪性腫瘍の中でもっとも患者さんの多い病気です。全国では毎年200人の新しい患者さんが病院を訪れます。 患者さんのうち、10歳代が約半数、5歳〜24歳までの患者さんが2/3を占めます。盛んに運動をしている活動性の高い少年期(小学生〜大学生)に発病します。もっとも発症しやすいのが10歳代、次いで20歳代、10歳未満の順になります。年齢が高くなるにつれて、発生は少なくなります。男女比では3:2で、男性にやや多い傾向があります。
骨肉腫が発生する部位は、半数近くは大腿骨の下端にできます。次に多くみられる部位は膝から下の太い方の骨の脛骨の上端です。膝から下の細い方の骨の腓骨の上端にも発生し、70%〜80%が膝の周囲に発生します。 肩の部分の上腕骨の上端にも、比較的多くみられます。 その他の骨にも発生しますが、きわめて少数です。まれなケースでは、全身の骨に発生する多発例も報告されています。 自然経過では、腫瘍の増大にともなって、血管に入り込み、おもに肺に到着して肺転移し腫瘤を作ります。
以前の治療法では切除術を行い、全部切除しても、肺転移などの遠隔転移のため、5年生存率は1/6程度しかありませんでした。 現在は抗ガン剤を使った化学療法が発達し、骨肉腫の患者さんの予後は著しく改善されました。現在の治療法では、2/3以上の患者さんが治癒しています。 手術療法も、切除術から、手足を残して切除する方法へと移っています。
現在の医学をもってしても、すべての患者さんが同じように化学療法に反応するわけではありません。治療成績がいまだに満足できるようなものではないことが問題点となっています。 手足を残す手術を行うためには、化学療法が良く効くことが条件になります。 手足を残した場合に切除した骨の部分は、人工の骨や関節で再建したり、ヒトの骨で再建したりしていますが、まだ確立した治療法がないのが現状です。
はっきりとした病気の原因は、まだわかっていません。 ごくまれに家族内の発生がみられますが、ガンを抑制する遺伝子の異常が関与しているのではないかと考えられています。
持続する痛みで発症します。 走ったり飛んだりした後に膝の関節が痛んだり、ボールを投げたりした後に肩の関節に痛みを感じたりします。痛みは激しいものでなく、安静にしていると軽くなります。スポーツ活動をしている年代のため、ただの筋肉痛だと思って放置されてしまうことがあり注意が必要になります。 スポーツ中の病的骨折によって、初めて骨肉腫に気が付くこともあります。病的骨折は、病気の予後に大きな影響を与えるようなことはありません。
進行すると痛みがだんだん強くなり、安静時でも痛むようになります。 この時期になると、患部の腫れ、発赤、触ると熱く感じる熱感、関節の動きが悪くなる可動性制限、脚を引きずって歩く跛行などがみられます。 多くの人は、この時期に医師の診察を受けます。最初に痛みが起こってから、すでに2ヶ月〜3ヶ月経過しています。 早期発見のためには、痛みが1ヶ月以上続くような場合、整形外科を受診するようにしてください。骨腫瘍であるかどうか、確かめる必要があります。
骨肉腫でも、典型的でない症例も存在します。骨の周りを囲むように硬い腫瘤を作る骨肉腫は、「傍骨骨肉腫」と呼ばれ、予後の良い骨肉腫です。 骨を破壊して急速に大きくなって内部は血液で満たされる嚢腫病変が主体の血管拡張骨肉腫は、動脈瘤性骨嚢腫に良く似ていますが、予後は不良の骨肉腫です。
エックス線写真では、腫瘍による骨の破壊と、骨をまだらに作っていることを示す骨硬化像の入り乱れた像がみられます。 骨の外へ進展すると、骨のまわりの骨膜が持ち上げられて、骨外の骨形成・骨膜反応が確認されます。
骨髄方向への進展状況、骨周囲への進展状況を調べるために、MRI検査を行います。 MRI検査は手術方法を計画立てるために必要な検査です。
血液検査では、骨を作るのに関連する酵素であるアルカリフォスファターゼ値の上昇がみられます。 細胞の元気さである代謝を調べるPET(ポジトロンCT)では、高い集積がみられます。 こうした検査は、化学療法の効果を知る上で必要な検査です。
コンピュータ断層撮影のCT、造影剤を血管に注入して血管のエックス線写真を撮影する血管造影、アイソトープによる画像で腫瘍を見付ける骨のシンチグラフィー、肺への転移を調べるために肺のエックス線検査やCT検査を行います。 最終的な診断は、腫瘍組織の一部をとって顕微鏡で調べる病理組織学的検査を行います。この結果と、さまざまな検査結果を統合して診断をします。
できるだけ小さな切開で、組織の一部を採取して病理組織診断を行います。 診断後、ただちに化学療法を開始します。 痛み、血液検査、画像検査の結果によって、化学療法の効果を判定し、手術を行います。放射線療法が加わることもあります。
以前は、骨肉腫の発生した四肢を切断する切断術、関節から切り離す関節離脱術が行われてきました。しかし化学療法の発展によって、腕や脚を切断しない患肢温存手術(かんしおんぞんしゅじゅつ)が広く行われるようになりました。 手術では、腫瘍を正常な組織で包むようにして切除します。骨の切除された部分は、人工関節、人工骨など、さまざまな材料を用いて再建します。こうした手術はすべての人に行うわけではありません。腫瘍が大きくなく、化学療法が良く効く、主要な血管や神経を切らずに済むといった時、患肢温存手術が適応されます。 手術後、傷が治るのを待ってから化学療法を再開します。
骨肉腫は血管に悪性の細胞が流れ込み、しばしば肺に転移します。肺への転移を防ぐことが、生命を救う大切な治療法のひとつになります。そのため骨肉腫の診断が確定すると、抗ガン剤などを使った化学療法がおこなわれます。 化学療法は白血球などの血液細胞の量を減らしてしまうため、約1ヶ月間回復を待ってから、効果のある化学療法を半年〜1年程度、繰り返し続けます。 嘔吐、脱毛、白血球減少などの副作用をともないますが、治療が終われば回復します。 化学療法終了後も、最低10年はしっかりとした経過観察が必要になります。
腕や脚を温存する治療法として、手術で腫瘍の部分を健康な部分から分けて、腫瘍の部分にだけ放射線を照射する術中放射線療法を行っている医療施設もあります。 手術が不可能な場所に腫瘍ができた場合、放射線療法が行われます。
治療を開始したときに肺や他の骨に転移していない人の5年生存率は約50%です。このうち、腕や脚を切らずにすんだ人では、5年生存率は約70%以上になります。早期発見・早期治療が治療成績や、腕や脚を切らずにすむことに繋がります。 切断や関節離脱を行った人には、義足などが必要になります。現在では優れた義足もあり、歩行は杖なしで十分可能です。
骨軟部腫瘍専門の病院を受診するようにしましょう。 専門医の説明を良く聞くことが大切です。
子供の場合の治療費は、小児慢性特定疾患に含まれる病気なので、手続きをすれば公費によって治療費の給付が受けられます。18歳未満で骨肉腫になった場合、20歳まで延長して治療費の給付が受けられます。 大腿で切断された場合、身体障碍者手帳にある3級の傷害に相当します。都道府県の指定医の身体障害者用診断書を添えて手続きをすれば、身体障碍者手帳が交付され、さまざまなサポートが受けられるようになります。