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肘周辺の骨折などに引き続いて起きる筋肉の壊死 神経の麻痺 手首と指の変形
肘から手首にかけての前腕部は、筋肉・神経・血管が、筋肉を包む薄い膜の筋膜によっていくつかの閉ざされた区画(コンパートメント)に分けられています。 肘の周辺の脱臼や骨折などのあとに、内出血・筋肉の腫れなどによって区画の内圧が上昇し循環不全を起こす病態をコンパートメント症候群と呼びます。
筋肉への血液供給が障害されて、筋肉が血液の足りない阻血性(そけつせい)の筋肉が死んだ状態の無腐性壊死(むふせいえし)に陥ってしまいます。無腐性壊死や末梢神経麻痺の状態になると、筋肉の正常な組織と伸縮性が消失してしまう病気です。
外傷、骨折によって血管が直接損傷を受けたり、圧迫を受けたりすると、周囲組織の阻血が起こりうっ滞、腫脹が生じます。このため、組織内圧を高め、筋肉への血液供給を極端に減少させて発症します。 子供では上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)が多く、大人では前腕部が強い力で挟まれたりして起こる前腕部挫傷(ぜんわんぶざしょう)、前腕部骨折が多くなります。
急性期では、肘や前腕が著しく腫れて強く痛みます。 進行すると、橈骨動脈(とうこつどうみゃく)の脈拍(手首の脈拍)が触れなくなります。手指は白くなり、しびれて動かなくなります。また、他人が指を伸ばそうとすると、痛みのために伸ばすことができません。 下肢の膝周辺の外傷時でも、同様の阻血性拘縮が起こります。
疼痛、腫脹、皮膚や粘膜が紫色になるチアノーゼ、脈拍欠如(みゃくはくけつじょ)、運動麻痺(うんどうまひ)、異常知覚の血管閉塞の明瞭な6症状があらわれた場合には、手遅れとなっていることが多くなります。 軽症では2本〜3本の指が曲がって伸びない状態となります。重症では、すべての指がワシの爪のように変形する鷲手変形(しゅうしゅへんけい)、しびれなどの知覚症状が残ります。
血管の不完全閉塞の場合では、脈拍が触れ、末梢の循環が良いことが多いです。上肢の場合は、指を伸ばすと痛みが出るといった症状は、診断のために重要となります。 エックス線写真で転位の高度な上腕骨顆上骨折が認められ、骨折部の腫脹が強い時はフォルクマン拘縮の可能性が高くなります。 膝周囲に関しても、同様です。
状況によっては血管造影が必要となる場合もあります。 急性期の症状が見られたら、筋膜内圧(コンパートメント内圧)の測定を行ないます。内圧が高ければコンパートメント症候群と診断し、フォルクマン拘縮になると判定します。
動脈閉塞後、フォルクマン拘縮が起きるまでの時間は6時間〜8時間と言われているので、適切な初期対応が重要となります。 まずは骨折や脱臼の牽引整復など、可能な限り阻血の原因を除去します。 それでも痛みがひどく、脈が触れないなど症状が改善されなければ、発症から12時間以内に筋肉・神経が循環障害を起こすのを防ぐため、緊急手術で前腕部の皮膚、筋膜まで切開を行い、筋膜内圧を減少させます。 血管に損傷があれば、縫合が必要になることもあります。
上肢ですでに筋肉が壊死して、完全に拘縮が起きてしまうと不可逆性の変化となり、手関節、指関節は屈曲拘縮してしまいます。 完全に拘縮ができあがってしまうと繊維化した筋肉や神経の癒着を切除した上で、変形に応じた再建のための矯正手術が必要となります。 フォルクマン拘縮はいったん起こってしまうと治療は難しく、完全回復は望めません。
すぐに整形外科を受診しましょう。