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病期により治療法が選択される |
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生検の結果のガンの悪性度、病期、患者さんの年齢・希望・合併症の有無などを総合的に考慮して、治療法を決定します。
治療方針を実際に決定するうえで、大切なポイントになるのがガンの広がりである臨床病期です。 |
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悪性度と進展度による治療方針 |
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組織診断での悪性度 |
高分化ガン |
G1 |
中分化ガン |
G2 |
低分化ガン |
G3 |
分化度が低いほど予後が悪い |
進展度(進み具合) |
限局ガン
(早期ガン) |
ガンが前立腺内にとどまっていると考えられる状態
ステージA〜B |
局所浸潤ガン |
ガンが前立腺周囲に浸潤しているが、明らかな転移がないと考えられる状態
ステージC |
進行ガン |
ガンがリンパ節あるいは骨などの他臓器に転移している状態
ステージD |
悪性度と進展度による前立腺ガンの治療方針 |
悪性度
進展度 |
高分化ガン(G1) |
中分化ガン(G2) |
低分化ガン(G3) |
限局ガン
(A、B) |
無治療
全摘または小線源療法 |
全摘または小線源療法、放射線療法
内分泌療法 |
全摘 |
局所浸潤ガン
(C) |
内分泌療法 |
内分泌療法
抗ガン薬療法+放射線療法 |
内分泌療法
抗ガン薬療法+放射線療法 |
進行ガン
(D) |
内分泌療法 |
内分泌療法
抗ガン薬療法 |
内分泌療法
抗ガン薬療法+放射線療法 |
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内分泌療法 |
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前立腺ガンは、約80%以上が男性ホルモン依存性ガンであるという性質を利用して、男性ホルモンを除去する治療を行います。男性ホルモン除去療法の種類は両側の精巣(せいそう)、つまり睾丸(こうがん)を摘除する去勢術と、薬剤でテストステロンを去勢レベルにするLH-RH療法があります。
男性ホルモン除去療法以外の内分泌療法としては、女性ホルモン剤や抗男性ホルモン剤があります。内分泌療法は、いずれの病期でも90%以上に効果がありますが、何年か経過するとこの治療が効かなくなることが多いです。 |
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手術療法 |
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根治治療としての手術に、根治的前立腺摘除術(こんちてきぜんりつせんてきじょじゅつ)があります。前立腺への到達経路により、恥骨後式(ちこつこうしき、順行性、逆行性)と会陰式(えいんしき)があり、恥骨後式の腹腔鏡手術が一部の病院では保険適応となっています。前立腺摘除術は、全身麻酔をかけて前立腺と精嚢を摘出し、尿道と膀胱を繋ぐ手術です。2時間〜3時間かかり、出血量は約400ml前後です。大量出血の可能性もあるため、手術前に自分の血液を保存する病院も多くあります。ガンがある程度進行し、リンパ節転移の可能性があるときは、手術と同時にリンパ節郭清術を行います。
ガンが前立腺内に限られている場合は、患者さんの希望により勃起機能を温存する神経温存術が行われています。術後に尿道から膀胱にカテーテルを留置しますが、1週間〜2週間で抜けます。カテーテルを抜いてから、約5%に1日に尿漏れパットを2枚以上使用する尿失禁がみられることがあります。
根治的前立腺摘除術の適応については、多くの見解がありますが、一般的に本人が希望し、重篤な合併症がなく、75歳以下で、ガンが前立腺内に限局していれば、手術のみで根治の期待ができるため広く行われています。 |
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放射線療法 |
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前立腺ガンの根治治療または骨転移部位の痛みを和らげるために、緩和治療として放射線療法が用いられています。
前立腺に限られているガンに対して、根治治療として放射線療法を行う場合は、前立腺に多くの線量を照射します。高線量であるため、前立腺の近くにある直腸や膀胱などへの影響を抑えるように照射方法が工夫されています。原体照射法や、強度変調放射線療法などがあります。
放射線療法は治療効果を上げるために、多くは一定期間、内分泌療法と併用して行います。悪性度が低い限局ガンに対して、前立腺内に小線源と呼ばれる約5mmの金属片を40個〜80個を埋め込む小線源治療が、日本でも保険診療が認められ、広く行われるようになりました。 |
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病期別治療法 |
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限局ガンは根治が期待できるので、手術療法または放射線療法が推奨されます。75歳以上の高齢者や重篤な合併症がある場合は、ホルモン療法を選択することもあります。また、限局ガンで、PSA4.1〜10、ガンの大きさが小さく、悪性度が低い場合は、活動性の低いガンであるラテントガンと考えて、治療しないで経過を観察することもあります。転移がなく、ガンが前立腺からわずかに周囲の組織に浸潤している局所浸潤ガンは、内分泌単独療法、手術、放射線療法と内分泌療法との併用が行われます。転移があると、前立腺以外にも広がっているため根治は難しく、内分泌療法を行うことになります。
十分な内分泌療法後に再発した転移がある場合を再燃ガンと呼び、副腎皮質ホルモン剤のプレドニゾロン単独療法や、プレドニゾロンと抗ガン剤のドセタキセル併用療法が行われていますが、2年以上の治療効果を期待するのは難しいのが現状です。 |
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再発 |
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治療によっていったん低下したPSA値が再び上昇したり、局所の再発、リンパ節まはた他臓器に新たに転移がみられた時を言います。
進行ガンと診断された場合、2年〜3年以内の再発が多く認められます。
再発に対する標準的な治療法はまだ確立されていません。再発したら根治治療は難しいのが現状です。 |
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治癒率と予後 |
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前立腺ガンは内分泌療法が有効なため、他のガンと比べると予後は比較的良いガンだと言えます。
5年生存率は、限局ガンでは90%以上、局所浸潤ガンで60%〜70%、進行ガンで30%〜40%です。とくに、限局ガンでも高分化ガン、中分化ガンでは5年生存率は100%近くになります。 |