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イライラ 頭痛
慢性閉塞性肺疾患(COPD) 肺ランゲルハンス細胞組織球症 肺ガン
喫煙習慣はなかなかやめることができないものです。これは、ニコチン依存症という精神疾患の一種であるためです。 アヘン、大麻、コカインと同様に、タバコの依存症は「精神および行動の障害」という疾病分類に入っています。
常習喫煙者が禁煙すると、タバコへの渇望、気が短くなる、イライラ、集中力の低下、不安、落ち着きのなさ、空腹など、ニコチン離脱症状が現れます。 多くの喫煙者がタバコをやめたいと思っていても、やめられない大きな原因は、このニコチン依存症による症状のためです。
健康のためにタバコの本数を減らしている人は多く存在します。何も考えずにスパスパとタバコを吸うよりは、はるかに良い心掛けです。 ですがタバコの本数を減らした場合、タバコを今まで以上に深く吸い込む、または根元まで吸うなどの傾向があります。このため、本数を減少させても、体内に取り込むニコチンの量は、さほど変化がないこともあります。 また、タバコの本数を減らしたとしても、有害物質を体内に取り込んでいることに変わりはありません。
タバコを吸う習慣のある人は、狭心症や心筋梗塞が多く発生することがわかっています。従来では1日20本以上吸う人が問題になっていましたが、最近では1日10本以下でも動脈硬化などが起こりやすいことがわかってきています。 タバコを吸うと、HDLコレステロールが減少しやすく、血管壁が収縮しやすくなると考えられています。
タバコの煙の中には、4700種類ものさまざまな気体と粒子成分が含まれています。これら多様な物質がどのように体内組織に作用しているのか、いくつかの事がわかってきました。200種類もの発ガン性物質が含まれており、中でもベンツピレンは肺の中でチトクロムP450という酵素により代謝され、強力な発ガン性物質になります。 ニコチンなどの物質には、異物を認識する働きを持つ免疫関係の細胞(T細胞)の分裂を抑える作用があり、病原微生物に対する免疫力が低下します。ニコチン自体に好中球など炎症を起こす細胞を呼び寄せる働きがあるため、肺胞に炎症を起こしたり、炎症を広げたりして、肺胞の破壊を招く原因となります。 タバコの煙の成分中にあるものは、肺にる異物を取り込み消化するマクロファージという細胞を弱らせて免疫力を低下させ、免疫反応をコントロールする化学物質(サイトカイン)のバランスを崩して炎症を起こしやすくすることもあります。
内視鏡を使った気管支肺胞洗浄(きかんしはいほうせんじょう)という方法で肺を洗って中の細胞を取って調べてみると、非喫煙者では細胞の80%〜95%がマクロファージという大型の細胞で、5%〜20%が小型で円形のリンパ球です。ほかに、好中球や好酸球という細胞がありますが、ごくわずかで1%以下です。 喫煙者では、細胞数が非喫煙者に比べて3倍〜5倍に増加し、増加した細胞のほとんどはマクロファージです。その比率は95%以上になります。 マクロファージはタバコの煙の成分をたくさん貪食していて、新しい異物が入ってきても貪食する余裕がなくなっています。リンパ球の割合は10%以下で、非喫煙者に比べて激減しています。 喫煙者の肺では、好中球の増加が目立つことがあります。これは喫煙者の肺は、たえず炎症を起こしている証拠となります。普通は喫煙者がタバコをやめて6ヶ月くらい経過すると、細胞の数と構成は非喫煙者の肺と同じような状態に戻ります。
タバコの煙には200種類以上の有毒成分が含まれています。これらの成分が気管や気管支に炎症を起こしたり、肺胞の構造を破壊したりして、呼吸機能を低下させます。また、肺の細胞の遺伝子に影響を及ぼし、肺ガンを発生させる原因となります。 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は長年の喫煙がおもな原因とされる病気です。喘息や花粉症は、喫煙によって症状が悪化するため、病気の予防のためにも、症状の悪化を防ぐためにも禁煙が必要です。 また、まれな病気ですが肺ランゲルハンス細胞組織球症もみられ、この病気になる人のほとんどは10歳代で喫煙を始めた人です。
喫煙者の過半数は、禁煙、あるいは節煙したいと考えているという報告があります。 しかし現実では、自分には禁煙なんてできないと最初から諦めてしまったり、喫煙をやめた時に感じる不安感や喪失感を恐れて禁煙に踏み切れない人が多いです。 本当はタバコをやめたいけれど、他人に言われたからやめるのは抵抗があるというのも、正直な気持ちだと思います。
タバコをやめたくてもやめられない理由には、意志が弱いとか、プライドが高いといった問題だけではありません。 禁煙の目的を明確にしていないため、本気で禁煙に取り組むことができないためです。
禁煙に取り組む意志を強くするためには、タバコに対する正しい知識を身に付けることです。喫煙による身体への害が、どれほど大きいのかを知ると同時に、禁煙することによって何を得られるのかに目を向けることが大切です。
禁煙の過程で意外と大きな障害となるのが、スモーカー仲間による誘惑です。 「タバコをやめると、かえってストレスが溜まる」、「オレの祖父はヘビースモーカーだったが、80歳まで元気だった」などの誘い文句につられてしまい、ついついタバコに手を出してしまう人が多いものです。このような傾向は、ニコチン依存症以外の麻薬やコカインなどの依存症でも同様です。 こうした誘惑に負けないためにも、禁煙する強い理由を持って禁煙に挑むことが、成功への近道といえます。
ニコチンに対してどの程度依存しているかは、手軽に評価することができます。ファガストロームのニコチン依存度テストというものがあります。 当然のことながら、依存度が高いほど、自力での禁煙は難しくなります。得点0点〜5点なら、依存度は低いと言えます。6点〜10点になると、依存度が高いと言えます。
呼吸機能の検査として、呼気一酸化炭素濃度測定を行います。タバコには20mg〜30mgの一酸化炭素が含まれているため、この量が喫煙の指標となります。 一酸化炭素は血液の酸素運搬機能を阻害し、組織の酸素欠乏を引き起こします。
禁煙することによって、病気にかかる危険性がどの程度低下するかを知っておくことは、禁煙を実行する上で大切です。 挫折しそうになったら、思い出すようにしてください。
禁煙するに当たって、これまでの喫煙する時の状況、喫煙する時間などを喫煙日記として書いておきます。 こうすることで、自分がいつ、どのような状況でタバコを吸っているのかがわかるようになります。
なぜ禁煙するのか紙に書いておき、いつでも再確認できるようにしておきます。 動機が明確でないと、禁煙の目的を忘れてしまい、再びタバコを吸い始めてしまいます。
禁煙によるメリットを紙に書いておき、いつでも再確認できるようにしておきます。 禁煙することで得られるメリットを確認することで、禁煙に対する意志を強固なものにします。
禁煙当初、ニコチン切れによる離脱症状が現れることを知っておきます。 離脱症状には、タバコを吸いたくてしょうがない、不安、怒りっぽくなる、だるい、口が渇く、頭がボーっとするなどがあります。 こうした症状が現れることを事前に知っておくことで、不安が軽減されます。
従来、禁煙は喫煙者の自助努力とされ、禁煙治療は全額自己負担で行われてきました。しかし、喫煙習慣はタバコに身体的にも心理的にも依存している、ニコチン依存症によるものであることがわかり、治療には医師の指導が必要と考えられるようになりました。 2006年(平成18年)から、ニコチン依存症管理料が設けられ、禁煙治療が保険の対象となりました。当初は入院患者のみが対象でしたが、現在では外来での治療も対象になっています。 禁煙治療のために専門の禁煙外来を設けている病院もありますが、呼吸器科、内科、耳鼻咽喉科でも行っている病院もあります。まずはかかりつけの医師に相談してください。
治療には、呼吸機能の測定、カウンセリング、禁煙補助薬の処方が行われます。禁煙補助薬は、ニコチンによって得られる満足感を薬剤によって代替するものです。 期間は3ヶ月で、初診の日から2週間後、4週間後、8週間後、12週間後に診察・処方が行われます。
タバコを一気にやめる断煙法と、少しずつ減らしていく節煙法があります。どちらが適しているかは、個人差があります。 節煙法ではまず、1日10本以下になるように減らしていき、そこから一気に断煙します。どうしてもできない場合は、さらに少しずつ減らしていきます。
禁煙治療で健康保険による禁煙治療を受けるには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
ブリンクマン指数は現在までの喫煙量をはかる指数で、400以上で肺ガンが発生しやすくなり、600以上で肺ガンの高リスク群、1200以上で喉頭ガンの危険が高まります。
ニコチン置換療法とは、喫煙習慣をニコチン依存症と考え、ニコチン依存度を段階的に改善しながら、禁煙に導くための補助的な治療法です。禁煙補助剤には、ニコチンを薬剤の形で補給し、離脱症状を和らげ、ニコチン補給量を減少させながら、ニコチン依存状態から離脱させるためのものです。 禁煙は本人の意志によって達成されるもので、ニコチン置換療法はそれを助ける補助的なものと位置付けられています。そのため、禁煙達成には、禁煙したい気持ちと十分な動機が大前提にあり、禁煙補助剤だけでは成功しません。
ニコチン含有ガム製剤(ニコレットなど)が薬局で販売されています。ニコチンガムを使用した治療法は、禁煙を容易にするニコチン置換療法のひとつで、ニコチンガムからニコチンを供給する方法です。 ニコチンガム1個には、2mgのニコチンが含まれています。30分かけて徐々に口腔粘膜から吸収され、タバコ1本分を吸った時の約半分の血中ニコチン濃度が得られます。タバコを吸いたくなったら、ニコチンガム1個をゆっくりと約30分間、口の中に入れます。通常、1日6個〜12個から始め、1日の使用量を少しずつ減少させていきます。1日1個〜2個になった段階で終了します。
ニコチンパッチは、医師の処方箋を必要とする要指示医薬品です。禁煙外来などを受診して、処方を受けてください。近年、薬局でも購入することができるようになりました。 円形のシールを皮膚に張り、皮膚からニコチンを体内に吸収させるものです。皮膚吸収のため、ニコチンガムに比べて遅行性で、タバコを吸った気分を得ることはできません。
ニコチンを吸収したのと同じ効果が得られるα4β2ニコチン受容体部分作動薬のバレニクリンの内服も、広く用いられるようになってきました。