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大動脈瘤


大動脈瘤の概要は?

胸部大動脈瘤のおもな症状

 

胸痛
せき
嚥下障害
枯れ声

腹部大動脈瘤のおもな症状

 

拍動性腫瘤
腹痛
腰痛

症状が似ている病気

 

縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)
後腹膜腫瘤(こうふくまくしゅりゅう)

起こりやすい合併症

 

大動脈瘤破裂


大動脈瘤ってどんな病気?

自覚症状に乏しい

 

大動脈瘤 大動脈瘤は動脈硬化によって、胸部大動脈、あるいは腹部大動脈の径が拡大し、コブ状になったものです。
 多くの大動脈瘤は少しずつ進行し、動脈の径が拡大していくため、初期ではほとんど自覚症状はありません。
 胸部大動脈は胸の中にあるため、自覚症状はほとんどありません。胸部エックス線検査で異常な影が映り、偶然気が付くことも多いほどです。

腹部大動脈瘤も自覚症状が少ない

 

 腹部大動脈瘤は、もっとも頻度の高い大動脈瘤です。ヘソの辺りにドキドキと拍動するコブに触れて、見付かることが多いです。痛みをともなうことが少ないため、見過ごされてしまうことも多くあります。
 大動脈瘤が大きければ、腹部を触ると拍動する腫瘤に触れることができます。大きな拍動性腫瘤を腹部に触れれば、腹部大動脈瘤の可能性が高くなります。

大動脈瘤破裂

 

 大動脈瘤でもっとも怖いのは、破裂することです。破裂した場合の致死率は、かなり高くなります。救命できても、重い後遺症を残すことが多いです。
 大動脈瘤が破裂すると大量に出血するため、破裂した動脈を人工血管に置き換えない限り救うことができません。
 破裂する前に、動脈瘤のある部分を人工血管に交換して、破裂のリスクをなくすことが大切です。
 破裂のしやすさは、大動脈瘤の経の大きさによって決まります。直径が大きければ大きいほど、動脈瘤の壁は薄くなり、破裂する可能性が高くなります。

大動脈瘤の種類

 

 大動脈の壁は、内膜(ないまく)、中膜(ちゅうまく)、外膜(がいまく)の3層構造になっており、壁構造の変化から、真性動脈瘤(しんせいどうみゃくりゅう)、仮性動脈瘤(かせいどうみゃくりゅう)、解離性動脈瘤(かいりせいどうみゃくりゅう)の3種に分類されます。
 動脈瘤の発生場所からは、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤、胸部と腹部の両方に発生する胸腹部大動脈瘤に分類されます。
 瘤の形状から、紡錘状瘤(ぼうすいじょうりゅう)、嚢状瘤(のうじょうりゅう)に分類されます。紡錘状瘤は動脈全周が拡張した状態で、通常の径の1.5倍以上になったものです。嚢状瘤は動脈壁の一部が袋状に拡張した状態で、大きさに関わらず形態によって診断されます。嚢状瘤の方が破裂しやすく、危険です。

胸部大動脈瘤

 

 横隔膜より上にある大動脈に起こり、上行大動脈瘤(じょうこうだいどうみゃくりゅう)、弓部大動脈瘤(きゅうぶだいどうみゃくりゅう)、下行大動脈瘤(かこうだいどうみゃくりゅう)、胸腹部大動脈瘤に分類されます。
 正常な胸部大動脈の径は約2.5cmです。大動脈の径が拡大して、正常の2倍を超え、5cm〜6cmになると、破裂の危険性が出てきます。
 胸部大動脈瘤の経が6cmを超えた場合、破裂防止のために手術治療が検討されます。

腹部大動脈瘤

 

 横隔膜より下の腹部大動脈に発生し、大動脈瘤の中でもっとも頻度の高いものです。両側の腎動脈(じんどうみゃく)の分岐部より下にできることが多く、両側の脚へ分岐する総腸骨動脈(そうちょうこつどうみゃく)が瘤化したり、閉塞や狭窄を合併することがあります。男性に多く、年齢が高くなるにつれて増加します。
 正常な腹部大動脈の径は1.5cm〜2.0cmです。大動脈の径が拡大して、正常の2倍の4cmを超えると、破裂の危険性が出てきます。
 腹部大動脈瘤の経が5cmを超えた場合、破裂防止のために手術治療が検討されます。


大動脈瘤の原因は?

家族に大動脈瘤の人に多い

 

血管 動脈瘤ができる正確な原因は、わかっていません。加齢による動脈硬化症から、動脈瘤によるものが大部分になります。
 大動脈瘤は高血圧の人、動脈硬化のある人、家族に大動脈瘤の人がいると、大動脈瘤になりやすい傾向があります。家族的・遺伝的傾向が認められています。

高血圧の人に多い

 

 大動脈には常に血圧によるストレスがかかっているため、高血圧の人は動脈の拡大が起こりやすくなります。
 動脈径の拡大が認められる人は、定期的な健康診断が必要です。
 破裂防止のためには、高血圧の治療が必要です。

大動脈瘤の症状は?

胸部大動脈瘤は多くが無症状

 

自覚症状 胸部大動脈瘤の場合、自覚症状がないことが多く、健康診断で胸部エックス線検査を行って、初めて発見されることがあります。

胸部大動脈瘤が大きくなると

 

 胸部大動脈瘤が大きくなると、周囲を圧迫してさまざまな症状を引き起こすことがあります。
 声帯を支配している反回神経を圧迫すると、左側の声帯の働きが悪くなり、嗄声(させい)・しわがれ声が出てきます。最初に耳鼻科で診察を受けた後、心臓血管外科を紹介される患者さんもいます。
 気管を圧迫すると呼吸困難になり、食道を圧迫すると食べ物を飲み込むことが困難になります。このような症状が現れた場合、胸部大動脈瘤はかなり大きくなっていると考えられます。

胸部大動脈が破裂すると

 

 胸部大動脈瘤が破裂した場合、胸痛が現れ、呼吸困難になります。
 胸部エックス線検査では、血液が胸部大動脈から周囲に出血している画像が多くみられます。このような場合は、すぐに手術ができる病院に搬送する必要があります。

腹部大動脈瘤では腹部にしこり

 

 腹部大動脈瘤は、腹部に拍動性腫瘤を触れることが典型的な症状です。
 動脈瘤が小さい、肥満で腹部に脂肪が貯まっている場合、触ってもわからないことがあります。
 腹部の超音波検査、CT検査で、初めて発見されることがあります。

腹部大動脈瘤が破裂すると

 

 腹部大動脈瘤が破裂した場合、出血が腹部から後方の腰の部分に広がることが多いので、激烈な腹痛や腰痛が起こります。血圧が急激に低下してショック状態となり、放置すると生命にかかわります。
 出血が一時的に止まって、腹痛や腰痛の症状が軽いこともあります。しかしその後、大出血して意識不明に陥ることも多くあります。
 腹部大動脈瘤の破裂が疑われる場合、すぐに手術ができる病院に搬送する必要があります。


大動脈瘤の診断は?

胸部大動脈瘤の検査

 

CT検査 胸部大動脈瘤の有無は、胸部エックス線検査で調べることができます。しかし、正確な胸部大動脈の径を調べるには、胸部エックス線検査からは困難です。
 心臓の影の裏側ある動脈瘤は見逃されやすいので、正面と側面から胸部エックス線検査を行うことで、胸部大動脈の拡大の有無を調べます。
 胸部大動脈瘤を診断するには、胸部CT検査が有効です。胸部大動脈の正確な径を調べることができます。手術が必要かどうかも、調べることができます。

腹部大動脈瘤の検査

 

 腹部大動脈瘤の有無は、腹部エコーや腹部CT検査で調べることができます。
 健康診断で腹部エコー検査を行いますが、胆嚢(たんのう)や肝臓は検査を行いますが、腹部大動脈の検査は行わないこともあります。そのため、腹部大動脈瘤が見逃されてしまうことがあります。
 腹部大動脈瘤も、同時に検査してもらう必要があります。
 腹部CT検査が有効で、腹部大動脈の正確な径を調べることができ、手術が必要かどうかもわかります。


大動脈瘤の治療法は?

薬物療法

 

治療法 大動脈の拡大が軽度なら、手術は行わずに薬で治療します。
 血圧を検査し、高血圧があれば血圧を上げないように薬による治療を行います。降圧薬として、交感神経遮断薬、利尿薬、交感神経α1遮断薬、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン交換酵素阻害薬、β遮断薬などが使用されます。
 大動脈瘤の人は、高血圧、糖尿病、高尿酸血症、脂質異常症の合併が多く、他の部位の動脈硬化性疾患をともなうこともあるため、合併症も含めた治療と管理を受けることが重要でうs。
 動脈瘤を治す薬はありません。血圧をコントロールしても、動脈瘤は少しずつ拡大し破裂に至るので、最終的な治療法は外科的手術となります。

人工血管による大動脈の置換術

 

 大動脈瘤が大きい場合、手術が必要になります。
 大動脈瘤の手術の基本は、人工血管による大動脈置換術(だいどうみゃくちかんじゅつ)です。
 動脈瘤が大きい場合、全身麻酔による胸部の開胸術、腹部の開腹術が必要になります。

胸部大動脈瘤の手術

 

 手術は身体への負担が大きいため、70歳〜80歳では中〜低リスク症例、80歳以上ではリスクのほとんどない症例が手術の対象となります。破裂、切迫破裂、合併症をきたしている場合、早急に手術を行います。
 胸骨の中心の位置で切開し、上行から弓部大動脈瘤の人工血管置換術は、補助手段として人工心肺を使った体外循環を行います。手術中は臓器保護・脊髄保護のため低体温にし、脳保護のため上大静脈からの逆行性嚢灌流(ぎゃっこうせいのうかんりゅう)、あるいは弓部分枝からの選択的脳灌流(せんたくてきのうかんりゅう)を必要に応じて併用します。
 冠動脈疾患を合併している場合、大動脈手術前に経皮的冠動脈形成術、冠動脈バイパス術を行うか、胸部大動脈瘤の手術と同時に行います。
 左胸を切開する人工血管置換術は、部分体外循環、一時的体外バイパス法を補助手段として用います。脊髄や脳の保護のため、超低体温、逆行性脳灌流を併用することもあります。

腹部大動脈瘤の手術

 

 動脈瘤を切除して、人工血管に置き換えます。5cm以上の大きさの動脈瘤では、年齢を問わず外科的手術を行います。最近では、合併症がなければ4cmでも積極的に手術する傾向にあります。腹部大動脈瘤では、破裂してからの緊急手術の成績がきわめて良くないことから、破裂前に予防手術を行います。
 腹部大動脈瘤の大部分を占める腎動脈分岐部よりも下方の動脈瘤の場合、大動脈を遮断し、補助手段を使わずにY型人工血管に置き換える手術を行います。

手術の後遺症

 

 手術の合併症として、脳梗塞脳出血、脊髄麻痺・下半身麻痺、心筋梗塞、感染などが起こることがあります。

新しいステントグラフト治療

 

 最近では、足の付け根からカテーテルと呼ばれる管を大動脈内に挿入し、人工血管を大動脈の内側から固定する方法が実用化されています。
 特殊な人工血管はステントグラフトと呼ばれ、全身麻酔による胸部の開胸術や腹部の開腹術のオープン手術に代わる治療法となっています。
 ステントグラフトの留置場所によっては、脳梗塞や肋間動脈閉塞による対麻痺などの合併症を起こす可能性があります。オープン手術が良いのか、ステントグラフト治療が良いのかは、患者さんの状態によります。現在では、オープン手術が基本となっています。


大動脈瘤かなと思ったら?

CT検査を受けてください

 

医者 胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤が疑われる場合、CT検査を受けることが良いでしょう。CT検査を受けることで、大動脈の正確な径がわかるので、大きさによってその後の治療方針を決めることになります。
 CT検査で大動脈の径が拡大し、本来の径の2倍以上になっていたら、破裂の危険性が出ます。その時は心臓血管専門医と慎重な検討が必要になります。
 手術は破裂予防のための手術なので、手術の危険性と破裂の危険性を十分に検討し、納得した上でその後の治療方針を決めることになります。

動脈瘤が大きければ手術を検討

 

 腹部大動脈瘤の手術の危険性は低く、2%〜3%です。径が5cmにおよぶ腹部大動脈瘤では、手術か、ステントグラフト治療が推奨されます。
 胸部大動脈瘤の手術の危険性は、腹部大動脈瘤の手術より高いとされています。
 手術の決定に際しては、患者さんの状態、手術の方法について十分に検討する必要があります。経験豊富な心臓血管外科専門医の診察を受けることをおすすめします。


大動脈瘤の手術後と日常生活の注意は?

手術後

 

手術後 破裂の予防手術後は、早めに床を離れ、早い体力回復と、社会復帰を目指します。1ヶ月〜2ヶ月で、手術前の状態に戻ることができます。
 高血圧や糖尿病などの合併症の治療も行います。

日常生活の注意

 

 禁煙を守り、高血圧や動脈硬化の予防に努めます。減塩食や低脂肪食の摂取を心掛けます。

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