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顔面不良 息切れ めまい 耳鳴り 動悸 倦怠感 舌の痛み 嚥下障害 爪の変形(さじ状爪・スプーン状爪) 異嗜症(いししょう)
血液の中には、さまざまな成分が含まれています。 その成分のひとつに赤血球(せっけっきゅう)があります。その中に含まれるヘモグロビンは、体中に酸素を運ぶ重要な働きをしています。
ヘモグロビンは、酸素と結合するヘムという物質と、グロビンという蛋白質が結合してできていますが、ヘムの合成には鉄が必要になります。 鉄は胃酸によって吸収されやすい形に変化し、十二指腸や小腸から吸収されます。 ヒトの体の中には約4gの鉄が含まれており、約3分の2がヘモグロビン鉄で、残りはおもに貯蔵鉄です。そのほか、血清、筋肉、酵素にも鉄は含まれています。
鉄欠乏による貧血を起こすと、乳幼児における成長、発達の障害、年長児における知的能力の低下にも関係するといわれています。
普通は、体内の鉄の出入りはごくわずかでバランスが保たれています。しかし何らかの原因によってこのバランスが崩れると、鉄欠乏症が起きます。 鉄が不足するとヘモグロビンの産生がうまくできなくなるため、赤血球1個あたりのヘモグロビンが減少します。そのため、赤血球の大きさが小さくなり、小球性低色素性(しょうきゅうせいていしきそせい)の鉄欠乏性貧血になります。 貧血の患者さんの90%以上が、鉄欠乏性貧血になります。
鉄の欠乏は、供給量と需要量、または喪失量のバランスが傾くことによって生じます。 鉄欠乏状態になる原因としては、食事性の鉄の摂取不足や消化管からの鉄吸収障害で供給量が不足した場合、成長期や妊娠にともなって鉄の需要量が増えた場合、慢性出血性疾患や月経過多による鉄の喪失量が増えた場合が考えられます。 生体内の鉄バランスが負に傾き、肝臓、脾臓(ひぞう)、骨髄などの組織の貯蔵鉄が消費され、潜在的な鉄欠乏状態になります。
体内の鉄分は、赤血球が壊れても再利用されますが、胃腸が吸収できる鉄分は1日でわずか1mgにしかすぎません。もし10gの出血があると、5mgの鉄分が失われてしまいます。失った鉄分を吸収して補うには、5日もかかってしまいます。 少量でも慢性的な出血があると、鉄欠乏性貧血の原因になります。
食事性の鉄摂取不足(栄養不良、偏食など) 消化管からの鉄吸収障害(胃切除後や吸収不良症候群など)
成長期 妊娠
慢性出血性疾患(胃潰瘍、胃ガン、寄生虫による消化管出血) 月経過多(子宮筋腫、子宮内膜症など)
貯蔵鉄が少なくなってくると血清鉄が次第に低下し、この状態が数ヶ月間続くと小球性低色素性貧血になります。 さらに進行して組織鉄が減少すると、貧血以外のさまざまな臨床症状が現れます。 日本赤十字社の調査によると、男性では0.5%、女性では12.7%が鉄欠乏性貧血だと言われています。これは、月経、妊娠、分娩、授乳などによって鉄分が失われるためです。女性には鉄分が不足しやすい条件があるため、鉄欠乏性貧血が多くなります。
成長の加速する10歳〜15歳の学童にみられる思春期貧血で女子が多い理由には、月経による失血が加わるためです。 また部活動など、過激なスポーツによるスポーツ貧血も思春期貧血に拍車をかけます。
長期に大量の牛乳を飲み続けて起こる貧血を、牛乳貧血と呼びます。 牛乳貧血の原因は単純ではなく、牛乳だけで満腹になってしまうなどの食事の偏り、牛乳アレルギーによる蛋白漏出性胃腸症(たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう)のための鉄吸収不全が考えられます。 牛乳貧血では、むくみをともないます。
鉄分は、肉類、レバーなどの食品に多く含まれていて、これらを適量食べなていないと、鉄分不足が起こります。 特に若い女性では、ダイエット食や美容食として生野菜を中心にした食事を続けたために、鉄欠乏性貧血を起こすこともあります。
胃や腸の粘膜に異常があると、鉄分の吸収がうまくいかず、鉄不足になります。 胃炎、胃下垂(いかすい)などの病気がある人、胃腸を切る手術を受けた人では、鉄分の吸収が妨げられてしまうため、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。
まれなケースですが、赤血球が血管内で破壊される病気になると、鉄分が尿に出てしまい、直接的に鉄欠乏性貧血が起こります。
貧血による組織への酸素供給量の低下を補うため、心拍数の増加による動悸・息切れ、疲れやすい易疲労感、全身倦怠感、頭重感、顔面蒼白、狭心症に似た症状(胸の痛み)など、一般的な貧血症状が現れます。 乳幼児では症状を訴えることができないため、顔色不良や、活気がなく不機嫌になり、だるそうで食欲がなくなります。 組織鉄の欠乏が進むと、爪がスプーン状になったり、口角炎、舌炎、嚥下障害(プラマービンソン症候群)などがみられることもあります。
脳貧血(のうひんけつ)であるいわゆる立ちくらみは、ひどい貧血の場合にも起こりますが、多くは自律神経機能の低下によって下半身の血管が縮まらず、その結果、上半身が血液不足になって起こります。
小児の鉄欠乏性貧血の中には、泥、チリ、釘(くぎ)、チョークなどを食べる異嗜症(いししょう)を示す症例もあります。
貧血は徐々に進行することが多いため、ヘモグロビンが6g/dl〜7g/dlくらいまで減少しても、身体が順応して明らかな貧血症状がみられないこともあります。
妊娠すると、胎児に鉄分をとられたりして、貧血が起こりやすくなります。鉄分の不足によって、鉄欠乏性貧血が起こることが多いのですが、巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)が起こることもあります。 貧血が起こると、全身のだるさ、息切れなど貧血の一般症状が現れます。妊娠に貧血はつきものと勘違いしている人もいます。妊娠中の定期検診は、貧血の早期発見にも重要なものなので、きちんと受けるようにしましょう。
貧血が見つかったら、鉄剤と共にビタミンB12、葉酸(ようさん)など、赤血球の産生を助ける薬も必要になります。食事で鉄分を補うだけでは改善しないことが多いのです。 日常生活から鉄分の不足で貧血気味の人は、妊娠を知った日から血液検査を定期的に行い、薬剤の服用については、主治医の指示に従ってください。
静脈から約10mlの血液を採取し、血液検査をすることで診断できます。ほとんどの病院、医院でも受けられ、約1週間後に結果がわかります。 赤血球数、ヘモグロビンの量(血色素量)、ヘマトリット値(血液に含まれる血球の割合)、平均赤血球容積(赤血球の大きさ)、平均赤血球色素(赤血球に含まれるヘモグロビンの量)などを検査します。これらの値が低くなっていれば、鉄欠乏性貧血と診断されます。 肝臓、脾臓に貯蔵された鉄量の指標となる血清フェリチンの値が低くなり、血清中の鉄分の量と総鉄結合能(鉄と結合する性質がある血液中の蛋白質の量で、鉄分が得られないヘモグロビン量を推定できる)を検査すると、鉄分が不足し、総鉄結合能が増加しています。
原因を調べるため、胃腸の出血、痔、便潜血などの有無をみる検査を行います。女性の場合、産婦人科の診察も必要になります。 理学的には心雑音が聞かれます。 60歳以上の高齢者では、鉄欠乏性貧血の約60%が消化管のガンなどの悪性疾患によると報告されています。便潜血(べんせんけつ)、内視鏡などの検査も必要になります。
痔、胃腸の潰瘍・ガン、月経過多などの原因があれば、まずその治療が必要になります。
偏食などの鉄の摂取不足、成長期や妊娠による鉄の需要の増大、生理や過激な運動による鉄の損失などの場合は、普段の食生活から鉄分を多量に含む食品の摂取する食事療法が大切です。 鉄分は肉類、レバー、魚の血合の部分などに多く含まれているので、偏食は避けバランスよく食べるようにしましょう。動物性食品中には吸収されやすいヘム鉄が、植物性食品には吸収されにくい非ヘム鉄が多く含まれています。ビタミンCは、非ヘム鉄の吸収を促進します。 胃下垂などで胃腸の弱い人は、胃腸を丈夫にするように努力すると予防になります。
貧血がひどい場合、食事療法で改善が難しい場合、硫酸第一鉄やさまざまな有機鉄が含まれる経口鉄剤を、1日100mg〜200mg前後で投与されます。 鉄剤を服用すると便の色が黒くなりますが、心配はありません。 副作用として吐き気などの胃腸障害がみられる場合がありますが、徐々に吸収されるように工夫された徐放性製剤によって軽減されます。
お茶やコーヒーに含まれているタンニンは鉄と結合して鉄の吸収を妨げますが、日常生活の中で普通に飲んでいる程度では問題ありません。 ただし鉄剤を飲むときは、お茶やコーヒーではなく、水で飲むようにしましょう。 人によっては、食欲の減退、胃のむかつきや不快感などが起こります。このような場合、鉄剤を食後すぐに飲むか、胃腸薬と一緒に飲むかすると落ち着きます。それでも調子が良くないときは、医師に相談して、鉄剤の種類を変えてもらうこともできます。
鉄の補給は経口が原則ですが、吐き気などが強くて経口投与が不可能な場合、鉄剤の吸収障害がある場合、急速に鉄欠乏状態の改善が必要な場合、入院して鉄剤の静脈注射や点滴による治療法が行われます。 鉄剤の静脈注射は鉄剤の過剰投与によるヘモクロマトーシスなどの障害を避けるため、必要以上に投与期間が長くならないように注意が必要です。
鉄剤の経口投与した場合の治療効果は、血清鉄が上昇し、網赤血球(もうせっけっきゅう)が7日〜10日後に増え、次いでヘモグロビンが上昇します。 貯蔵鉄が完全に正常になるまでには、3ヶ月〜4ヶ月程度かかります。血清フェリチン値が十分に上昇するまで、治療を継続する必要があります。自己判断で内服を中止しないようにしてください。
まずは内科を受診し、血液検査をしてもらいます。 鉄欠乏性貧血と診断された場合、鉄欠乏の原因を調べることが大切です。 痔や子宮筋腫などの良性の疾患による鉄欠乏性貧血は、適切な鉄剤の投与によって治癒します。 成人の場合、消化器のガンが原因疾患であることがあるので、注意が必要になります。
出血などの明らかな原因がなく、2週間以上鉄剤を服用しても反応がない場合は、血液疾患の可能性もあるため、血液内科への受診が必要になります。
鉄欠乏性貧血の食事療法の解説コラムです。治療を受ける際の参考にしてください。 家庭の医学:貧血の食事療法とは?