そらいろネット > 家庭の医学 > 運動器の病気 > 変形性膝関節症
膝の痛み(動き始めや、立ち上がるとき) 重い物を持ったり、長時間歩くことができない
慢性関節リウマチ 痛風(つうふう) 半月板損傷(はんげつばんそんしょう) 関節鼠(かんせつねずみ)
変形性関節症は、関節の軟骨が破壊されて、関節全体に退行性変化が起こった状態です。変形性関節症のなかでも変形性膝関節症はもっとも多く、「年を取って膝が痛い」という場合のほとんどが、変形性膝関節症です。膝は、体重を受ける関節であり、好発部位といえます。 初老期から発生することから、変形性膝関節症は高齢者の日常生活に支障をきたす重大な問題といえます。
変形性関節症は、関節の軟骨が何らかの原因で弱くなったり、軟骨下骨(なんこつかこつ)が正常な負荷を吸収できない状態で、発生しやすくなります。 関節の軟骨は、硝子様軟骨(しょうしようなんこつ)で、内容はプロテオグリカン、水、コラーゲンからできています。 変形性関節症は、軟骨のコラーゲン線維の破壊、プロテオグリカンの軟化、消失が発生の原因と考えられています。
誘因としては、全身的因子、加齢的因子、体質的因子、機械的因子、局所的因子があります。 いずれの誘因も、単一の因子によるものではなく、いくつかの因子が重なり合って変形性膝関節症の原因となります。
もっとも多い自覚症状は疼痛(とうつう)です。長距離歩行時の痛みから始まり、正座ができなくなり、立ち上がりやしゃがみ込み、階段の上り下りがつらくなります。特に初期の場合は、動作を始める時の痛みです。一方で、安静時の痛みは少ないのが普通です。 日本人の場合では、O脚が多いので、荷重は関節の内側に集中し、痛みが起こってしまいます。病気が進むにつれて、内側の関節面の軟骨がすり減っていきます。 とくに、女性に多く発生し、肥満傾向の人に多く起こります。
腫れをともなうことが多く、関節水腫(かんせつすいしゅ)が原因になります。膝が慢性的に腫れて大きく見えます。関節液は黄色で透明です。 関節の透き間から、前内側膝蓋部(ぜんないそくしつがいぶ)にかけて、押すと痛むところ(圧痛点)があります。
症状が進行すると、膝関節を完全に伸ばすことができなくなります。曲げ伸ばしの角度が次第に悪くなっていき、屈曲(くっきょく)が制限されるようになります。 さらに症状が進行すると、関節の変形が進み、側方動揺性(そくほうどうようせい)と言って関節が側方にぐらつくようになります。
X線写真では、骨棘が形成されたり、関節のすきまが狭くなったり、軟骨下骨の組織が硬化している像などが見られます。 膝関節が内側に反るように変形し、下腿軸(かたいじく)の異常が起こります。 X線検査では、荷重した状態で下肢の全長正面像を撮影することが重要になります。
診断は、年齢、臨床所見、X線検査から行います。さらに、関節造影や、関節鏡を行うことで、より正確なものとなります。 鑑別診断で重要なものは、関節リウマチと膝関節結核(しつかんせつけっかく)との区別です。関節リウマチでは、赤血球沈降速度の亢進と、リウマトイド(RA)因子が陽性であることから見分けられます。膝関節結核は、組織を取って調べる滑膜生検(かつまくせいけん)の所見から見分けることができます。
まず、保存療法を行います。 膝関節への負担を軽減させるために、体重を減らします。 大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の訓練が重要で、膝関節の安定性と、関節水腫の改善が期待できます。 装具療法も大切で、O脚を改善させる足底板の装具が有効です。
内服薬では、消炎鎮痛剤がメインとなります。 常用すると胃潰瘍(いかいよう)の心配があるため、痛みが強い時だけ、または外出の予定がある時だけ服用します。安静時でも痛かったり、痛みで眠れないといった症状には、1日2回〜3回、時間通りに服用する場合もあります。
外用薬では、皮膚からの吸収が良い消炎鎮痛薬の入った湿布、または塗り薬を使います。 冷湿布と温湿布のどちらが良いかについては、消炎沈痛成分の効果を期待して使用するので、大きな差はありません。両方使ってみて、調子の良い方を選んでもかまいません。ただし、温湿布は皮膚への刺激が強いため、湿布かぶれの原因となることもあります。
注射では、ヒアルロン酸という関節液や軟骨の成分を含んだ注射剤を使います。潤滑剤としての働きや、炎症を抑える効果もあります。 また、ステロイド薬を使うこともあります。炎症や痛みを抑えるのに高い効果がありますが、使いすぎると軟骨や靭帯(じんたい)を弱くするという副作用があります。
理学療法では、温熱療法が行われます。俗に言う「デンキをかける」という治療です。 効果は一時的な場合から、すっかり良くなる場合まで、膝の状態によってさまざまです。1ヶ月〜2ヶ月続けてみて、効果があるようなら続けます。 太ももの筋肉の大腿四頭筋を鍛えることも重要です。
保存療法による治療効果が期待できない場合は、手術療法を検討します。痛みの程度、歩行能力、年齢、X線所見、患者さん自身の希望などを考慮して、手術法を選択します。 高位脛骨骨切り術は、まだ変形を起こしていない関節面が残っている場合に行われます。 変形性の変化が重度の場合は、人工関節全置換術の対象となります。長期成績も良好で、手術後のリハビリテーションも早く進むので、手術件数が増えてきている手術法です。 手術を行えば、疼痛は明らかに改善されます。しかし、術後の合併症として、血栓症による肺梗塞(はいこうそく)、脳梗塞、心筋梗塞の発生に十分注意を払う必要があります。 他にも、関節鏡手術があります。