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 前立腺ガン

前立腺ガンの概要は?
おもな症状
  初期には無症状
排尿の勢いが弱い
排尿の痛み
肉眼的血尿
骨の痛み(骨にガンが転移した場合)
似ている病気
  前立腺肥大症
膀胱頸部硬化症(ぼうこうけいぶこうかしょう)
慢性前立腺炎
前立腺結核
膀胱炎
膀胱ガン
坐骨神経痛
起こりやすい合併症
  膀胱炎
腎盂腎炎
膀胱尿管逆流症(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうしょう)
水腎症(すいじんしょう)
骨転移にともなう骨の痛みと神経症状(しびれ、麻痺など)
病的骨折

前立腺ガンってどんな病気?
前立腺の悪性腫瘍
  イメージ画像 前立腺ガンは、前立腺に発生する悪性の腫瘍です。
 尿道から離れた前立腺の辺縁部に発生することが多いとされています。そのため、ある程度大きくならないと尿道を圧迫することはなく、排尿障害などの症状を起こしません。
 症状をともなう段階では、ガンがある程度進行している可能性が高いといえます。
高齢者に多い
   前立腺ガンは、40歳代から発生すると言われていますが、臨床的には50歳代からみられることが多く、年齢が進むにつれて頻度が高くなります。
 典型的な高齢者のガンです。
男性ホルモンとの関係
   前立腺ガンの原因として、老齢になるにつれて男性ホルモンの分泌が少なくなり、性ホルモンの不均衡が起こるためと考えられていますが、詳しいことはまだわかっていません。
腫瘍マーカーPSA
   前立腺ガンは、初期にはあまり症状がなくても、進行するとリンパ節や骨に転移して、痛みをともなうようになります。
 前立腺ガンは、早期の段階から腫瘍マーカーのひとつであるPSA(前立腺特異抗原)が上昇することが知られています。
 前立腺ガンのほとんどで、PSAが上昇するため、検診で広く用いられ、早期の段階で見つかるようになりました。

PSAとは?
PSAの基準値
  イメージ画像 PSAは、PA、または前立腺特異抗原と呼ばれます。基準値は、4ng/ml以下です。
 PSAは、前立腺上皮から作られる成分で、糖と蛋白が統合した糖蛋白です。
 前立腺ガンの腫瘍マーカーとして有効で、ガンに対する特異性が高い検査として、前立腺ガンの早期診断や治療後の経過観察に用いられています。
値が高い(陽性)
   前立腺ガンのほか、前立腺肥大症、前立腺組織内の壊死、炎症がある場合も値が上昇します。
 値が高いときは、精密検査が必要とされます。PSAの値が10.1ng/mlを超える場合は、前立腺ガンが存在する可能性が高いと判定されます。
 前立腺ガンであるかどうかを確定診断するために、直腸診や経腸的超音波検査、前立腺生検による組織診断などを行います。
精密な検査が必要
   ガンが検出されても、PSA値だけで、ガンの進行度や広がりを示す病期は判定できず、さらにCT検査や骨シンチグラフィーなどの画像検査を行います。

前立腺ガンの原因は?
詳しい原因は不明
  イメージ画像 前立腺ガンの原因は遺伝子の異常と言われていますが、加齢と男性ホルモンの存在が影響しています。しかし明確な原因はまだわかっていません。
 そのため、効果的な予防法も明らかになっていません。
さまざまな研究報告
   欧米の報告によると、肉やミルクなど脂肪分が多く含まれている食事を多く摂取することにより、前立腺ガンの発生が増えると考えられています。
 一方、穀類や豆類など繊維を多く含む食事は、ガンの発生を抑える効果があると考えられています。
 ハワイやアメリカ東海岸在住の日系人は、日本人とアメリカ人の中間の発生率です。そのため、食事の欧米化が原因とする考えの根拠のひとつとなっています。
 喫煙との関係を指摘する報告もあります。
親族に前立腺ガンの患者さんがいる場合
   前立腺ガンは遺伝の要素が強いガンのひとつと考えられているため、親族が前立腺ガンの場合、早めにPSA検査を受けることをすすめます。

高齢者に多い急増中のガン
急増中のガン
  イメージ画像 欧米では、男性に発生するガンのうちで一番多いのが前立腺ガンです。
 日本では6番目に多いガンですが、前立腺ガンの患者さんは急激に増加しており、30年前に比べると7倍にもなっています。
 前立腺ガンは高齢者に発生することから、一時は高齢者人口が増えたことによって前立腺ガンが増加したと考えられていました。
 しかし、前立腺ガンの増加率は、男性の高齢者人口の増加率をはるかに上回っており、高齢者人口の増加だけでは、日本の前立腺ガンの患者さんの増加を説明することができません。
 食生活などの生活環境の変化も影響していると考えられます。
これからも増加する
   前立腺ガンは将来も増加し続けると推測され、厚生労働省の発表では2020年には前立腺ガンが、肺ガン大腸ガンと並んで頻度の高い男性ガンになると予想されています。

前立腺ガンの症状は?
初期は無症状
  イメージ画像 前立腺ガンは前立腺の外側の腺上皮から発生する確率が高く、初期にはほとんど症状がありません。
 ガンが大きくなって尿道が圧迫されると、尿が出にくい、尿の回数が多い、排尿後に尿が残った感じがする、夜間の尿の回数が多いなど、前立腺肥大症と同じ症状が現れます。
血尿は排尿痛
   ガンが尿道、または膀胱に広がると、排尿の時の痛み、尿漏れ、肉眼でわかる血尿が認められます。さらに大きくなると、尿が出なくなります。
 精嚢腺(せいのうせん)に広がると、精液が赤くなることがあります。
 さらにガンが進行すると、リンパ節や骨(脊髄と骨盤骨)に転移します。リンパ節に転移すると、下肢のむくみが現れます。骨に転移すると、痛みや下半身麻痺を起すことがあります。

前立腺ガンの診断は?
検査の流れ
  イメージ画像 診断にはスクリーニング、そして確定診断するためには前立腺生検を行い前立腺ガン細胞の存在を確認する病理診断を行います。
 そして、ガンと診断後にガンの広がりを調べるための病期診断を行います。
スクリーニング
   外来では直腸内指診(肛門から指を入れて前立腺を触診すること)と、PSA値で前立腺ガンの疑いがあるか決めることが多いです。
 近年は直腸内指診で異常がなく、PSA高値のみで発見される前立腺ガンが増加しています。
 PSAは年齢にともなって上昇することが知られていて、50歳代と60歳代の平均PSA値は4未満であるため、これらの年代では、PSAの基準値とされる4以上あっても、生検を受けて早期ガンを発見した方が良い場合があります。しかしPSAは前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇することがあるため、前立腺の大きさや経時的なPSAの変化を参考にして、生検を行うかどうかの選択をします。また、PSAは、治療後の再発をモニターするのにも有用です。
前立腺生検(確定診断)
   一般的には経直腸的超音波検査(肛門から超音波の機械を入れる方法)で前立腺を確認して、直腸から、または会陰(えいん)から前立腺に針を刺して組織を採取します。これを生検といいます。
 前立腺ガンの病巣は、超音波検査では正常の前立腺に比べて黒く映ることが多いのですが、これを判断するのが難しいため、前立腺全体を均一に生検する系統的生検が考案されました。この方法によって、前立腺ガンの見つかる確率が向上しました。
病期診断
   前立腺ガンと診断されると、ガンの存在する範囲を診断する必要があります。これが病期診断です。
 前立腺内の病巣、前立腺の外にガンが広がっているか調べるには、生検時に用いた超音波検査と並んでMRIが有効です。前立腺周囲の臓器である精嚢(せいのう)、直腸や膀胱への広がり、リンパ節転移や遠隔転移病巣の検索にはCT検査が有効です。前立腺ガンの良く転移する部位はリンパ節と骨であり、全身の骨転移の検索には骨のシンチグラフィーが用いられます。

前立腺ガンの治療法は?
病期により治療法が選択される
  イメージ画像 生検の結果のガンの悪性度、病期、患者さんの年齢・希望・合併症の有無などを総合的に考慮して、治療法を決定します。
 治療方針を実際に決定するうえで、大切なポイントになるのがガンの広がりである臨床病期です。
悪性度と進展度による治療方針
 
 組織診断での悪性度 
 高分化ガン G1
 中分化ガン G2
 低分化ガン G3
分化度が低いほど予後が悪い

 進展度(進み具合) 
 限局ガン
  (早期ガン)
ガンが前立腺内にとどまっていると考えられる状態
ステージA〜B
 局所浸潤ガン ガンが前立腺周囲に浸潤しているが、明らかな転移がないと考えられる状態
ステージC
 進行ガン ガンがリンパ節あるいは骨などの他臓器に転移している状態
ステージD

 悪性度と進展度による前立腺ガンの治療方針 
   悪性度
進展度
高分化ガン(G1) 中分化ガン(G2) 低分化ガン(G3)
限局ガン
(A、B)
無治療
全摘または小線源療法
全摘または小線源療法、放射線療法
内分泌療法
全摘
局所浸潤ガン
(C)
内分泌療法 内分泌療法
抗ガン薬療法+放射線療法
内分泌療法
抗ガン薬療法+放射線療法
進行ガン
(D)
内分泌療法 内分泌療法
抗ガン薬療法
内分泌療法
抗ガン薬療法+放射線療法
内分泌療法
   前立腺ガンは、約80%以上が男性ホルモン依存性ガンであるという性質を利用して、男性ホルモンを除去する治療を行います。男性ホルモン除去療法の種類は両側の精巣(せいそう)、つまり睾丸(こうがん)を摘除する去勢術と、薬剤でテストステロンを去勢レベルにするLH-RH療法があります。
 男性ホルモン除去療法以外の内分泌療法としては、女性ホルモン剤や抗男性ホルモン剤があります。内分泌療法は、いずれの病期でも90%以上に効果がありますが、何年か経過するとこの治療が効かなくなることが多いです。
手術療法
   根治治療としての手術に、根治的前立腺摘除術(こんちてきぜんりつせんてきじょじゅつ)があります。前立腺への到達経路により、恥骨後式(ちこつこうしき、順行性、逆行性)と会陰式(えいんしき)があり、恥骨後式の腹腔鏡手術が一部の病院では保険適応となっています。前立腺摘除術は、全身麻酔をかけて前立腺と精嚢を摘出し、尿道と膀胱を繋ぐ手術です。2時間〜3時間かかり、出血量は約400ml前後です。大量出血の可能性もあるため、手術前に自分の血液を保存する病院も多くあります。ガンがある程度進行し、リンパ節転移の可能性があるときは、手術と同時にリンパ節郭清術を行います。
 ガンが前立腺内に限られている場合は、患者さんの希望により勃起機能を温存する神経温存術が行われています。術後に尿道から膀胱にカテーテルを留置しますが、1週間〜2週間で抜けます。カテーテルを抜いてから、約5%に1日に尿漏れパットを2枚以上使用する尿失禁がみられることがあります。
 根治的前立腺摘除術の適応については、多くの見解がありますが、一般的に本人が希望し、重篤な合併症がなく、75歳以下で、ガンが前立腺内に限局していれば、手術のみで根治の期待ができるため広く行われています。
放射線療法
   前立腺ガンの根治治療または骨転移部位の痛みを和らげるために、緩和治療として放射線療法が用いられています。
 前立腺に限られているガンに対して、根治治療として放射線療法を行う場合は、前立腺に多くの線量を照射します。高線量であるため、前立腺の近くにある直腸や膀胱などへの影響を抑えるように照射方法が工夫されています。原体照射法や、強度変調放射線療法などがあります。
 放射線療法は治療効果を上げるために、多くは一定期間、内分泌療法と併用して行います。悪性度が低い限局ガンに対して、前立腺内に小線源と呼ばれる約5mmの金属片を40個〜80個を埋め込む小線源治療が、日本でも保険診療が認められ、広く行われるようになりました。
病期別治療法
   限局ガンは根治が期待できるので、手術療法または放射線療法が推奨されます。75歳以上の高齢者や重篤な合併症がある場合は、ホルモン療法を選択することもあります。また、限局ガンで、PSA4.1〜10、ガンの大きさが小さく、悪性度が低い場合は、活動性の低いガンであるラテントガンと考えて、治療しないで経過を観察することもあります。転移がなく、ガンが前立腺からわずかに周囲の組織に浸潤している局所浸潤ガンは、内分泌単独療法、手術、放射線療法と内分泌療法との併用が行われます。転移があると、前立腺以外にも広がっているため根治は難しく、内分泌療法を行うことになります。
 十分な内分泌療法後に再発した転移がある場合を再燃ガンと呼び、副腎皮質ホルモン剤のプレドニゾロン単独療法や、プレドニゾロンと抗ガン剤のドセタキセル併用療法が行われていますが、2年以上の治療効果を期待するのは難しいのが現状です。
再発
   治療によっていったん低下したPSA値が再び上昇したり、局所の再発、リンパ節まはた他臓器に新たに転移がみられた時を言います。
 進行ガンと診断された場合、2年〜3年以内の再発が多く認められます。
 再発に対する標準的な治療法はまだ確立されていません。再発したら根治治療は難しいのが現状です。
治癒率と予後
   前立腺ガンは内分泌療法が有効なため、他のガンと比べると予後は比較的良いガンだと言えます。
 5年生存率は、限局ガンでは90%以上、局所浸潤ガンで60%〜70%、進行ガンで30%〜40%です。とくに、限局ガンでも高分化ガン、中分化ガンでは5年生存率は100%近くになります。

前立腺ガンかなと思ったら?
まずはPSA検査
  イメージ画像 一般開業医、もしくは検診センターでPSA検査を受けてください。PSA検査の結果が4ng/ml以上だったら、泌尿器科専門医の診察を受けるようにしてください。
 PSA値が4ng/ml〜10ng/mlをグレーゾーンと言い、針生検で20%〜30%の確率でガンが発見されます。PSA値が10ng/ml以下だったら、針生検を受けることをおすすめします。
予防法
   日常生活での注意は、脂肪の多い食事はなるべく控えるようにします。繊維、穀物、豆類を多くとり、運動をして太らないようにしましょう。
 もちろん禁煙です。
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