そらいろネット > 家庭の医学 > 耳の病気 > 機能性難聴・心因性難聴
外耳、中耳、内耳、蝸牛神経(かぎゅうしんけい)、脳幹(のうかん)に明らかな障害(気質性障害)がないにもかかわらず、聴力検査結果で異常がみられることがあります。 これは、純音聴力検査をはじめとした自覚的聴力検査では、被験者の全面的な協力を前提としています。そのため、無意識であれ、意図的であれ、検査中の応答を偽られれば、正しい検査結果があらわれないために起こります。 このような聴力障害の状態を、機能性難聴(きのうせいなんちょう)、または非器質性難聴(ひきしつせいなんちょう)と呼びます。真の機能性難聴は、まったく原因がわかならい非器質性難聴のことだけを指します。
機能性難聴のうち、原因となる精神的ストレス(心因)が明らかなものを心因性難聴と呼びます。 ヒステリーが原因のものも、この病気に含まれ、ヒステリー難聴と呼ばれます。
意図的に難聴を装った結果、起こる難聴のことを詐聴(さちょう)と呼びます。
心因性難聴では、明らかな精神的ストレスが原因となります。 女性に多くみられ、性格的には幼児的性格、依存心が強いのが特徴です。 近年、日本で増加傾向にある学童期の心因性難聴では、家族・友人・先生などとの心理的葛藤、学校・家庭などにおけるストレスが原因で、ストレスから逃避するために難聴が発生します。
詐聴を訴える人は、詐聴と偽ることで何らかの利益を得ようとすることを目的としています。 一般的に多いのは、交通事故や労働災害などで手当金や特典などを得ようとするため、病院を受診します。
音は外耳から鼓膜に達して、鼓膜の振動は3つの耳小骨(じしょうこつ)をへて内耳に伝えられます。ここまでの間に、なんらかの障害が生じていると、音がうまく内耳に伝わらなくなります。これを「伝音難聴」と呼びます。 内耳に伝えられた音の振動は、内耳のコルチ器という部分にある有毛細胞を振動させ、細胞内の電気的信号に変換されます。電気的信号に変換され、聞こえの神経に伝達し、さらに脳へと送られて音を感じることができます。内耳以降のレベルに障害が起こって生じる難聴を「感音障害」と呼びます。
難聴が伝音難聴か感音難聴かは、聴力検査で診断できます。耳にあてた受話器から音を聞いた時の聴力を「気導聴力」と呼びます。 耳の後に振動子(骨導受話器)をあて、直接頭蓋骨を振動させて測る聴力を「骨導聴力」といいます。 骨導聴力が良いのに気導聴力が悪い場合、外耳〜内耳にかけて異常があると考えられ、伝音難聴と診断されます。骨導聴力と気導聴力が同程度に悪ければ、内耳以降に異常があると考えられ、感音難聴と診断されます。
伝音難聴の原因は、耳垢(じこう)の詰まり、鼓膜の穿孔(穿孔)、中耳炎(滲出性中耳炎、急性中耳炎、慢性中耳炎、中耳真珠腫)、耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)、耳小骨連鎖離断(じしょうこつれんさりだん)、耳小骨奇形(じしょうこつきけい)、耳硬化症(じこうかしょう)などがあります。 基本的には、処置や手術で改善可能な難聴です。
感音難聴の原因は、内耳性難聴と、それ以降に原因のある後迷路性難聴(こうめいろせいなんちょう)とに分類されます。 内耳性難聴には、先天性難聴、騒音性難聴、音響外傷、突発性難聴、メニエール病、聴器毒性薬物中毒、老人性難聴、ウイルス感染症による難聴などがあります。 後迷路性難聴には、聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)、脳血管障害による難聴、脳炎などによる難聴、心因性難聴など、多彩な原因があります。
難聴で補聴器を用いる場合は、伝音難聴では非常に有効です。しかし、感音難聴では言葉のわかりやすさに一定の限界があります。
心因性難聴でも、詐聴でも、難聴の症状は急激に両側同時にあらわれます。 純音聴力検査の結果による難聴の程度に比べて、日常会話には支障が少ないのが特徴です。
学童期の心因性難聴では、学校の検診で初めて発見される場合(健診難聴)が多いです。そのため、本人はまったく難聴に気が付いていないこともあります。
純音聴力検査では、両耳に中等度〜高度な難聴を示します。 一方で、日常会話には支障がないことが多いため、純音聴力検査結果に比べて、語音明瞭度検査の結果が良いのが患者さんの大部分を占めます。
自記オージオメトリー検査では、継続音記録の閾値(いきち・興奮を起させるのに必要な最小の刺激量)が持続音記録のものより上昇しているJerger V型と呼ばれる典型的な反応を示します。 実際の聴力は正常のため、聴性脳幹反応(ABR)では正常反応を示し、アブミ骨筋反射の閾値も正常範囲を示します。聴性脳幹反応(ABR)では、本人の意思とは関係なく眠らせての検査が可能なので、機能性難聴の検査と診断としては、理想的と考えられています。
求心性の視野狭窄(しやきょうさく・視野が狭くなること)が合併することもあります。
心因性難聴では、まず器質的な障害がないことを、患者さんだけでなく、家族も十分に理解することが重要になります。 日常生活に支障がない場合は、特別に病人扱いをせず、1ヶ月〜3ヶ月ごとに必ず聴力検査を受けて様子をみます。 さらに、原因となる精神的ストレスを見つけ出し、その負担を軽くするように生活指導をします。必要があれば、精神療法や精神科医の診察を受けます。 耳の治療や、投薬は行いません。
詐聴の治療は不要です。 詐聴を訴え金銭などを得た場合には、詐欺罪が適用されます。10年以下の懲役に処され、犯罪によって得たものは没収、または追徴されます。組織的に行った場合は1年以上の有期懲役に処されます。 自称・作曲家であり、自称・音楽家でもある、佐村河内守氏が有名です。
心因性難聴でも、詐聴でも、急激に難聴症状があらわれる場合があります。その場合、突発性難聴などの器質性の障害が原因の可能性があります。特に突発性難聴では、早期の治療開始が治療効果と関係しています。 したがって、早く耳鼻咽喉科を受診する必要があります。
日常生活に支障がなくても、学校の検査で難聴と診断される場合(健診難聴)があります。 この場合でも、耳鼻咽喉科を受診する必要があります。