A.T.ベックは、うつ病の患者さんは幼児期から形成された否定的自動思考を持っており、それによってうつ病が引き起こされると考えました。例えば、「完全な業績を上げなければ人には好かれない」という信念(belief)を持っていると、何か仕事でつまづいた時、「なんて役立たずな人間なんだろう」、「何をやってもダメなんだ」、「これからも人に好かれるわけはない」といった解釈となり、結果としてうつ病を発症してしまうことになります。
認知行動療法では、そのような信念を持つにいたった原因を問題にするのではなく、その認知の歪みを修整し、それによって感情や行動を変えていくことを目的としています。「すべて完璧な仕事をできる人など存在しないし、失敗してもそれですべての人に嫌われることなどあり得ない」という、合理的な信念に自分で書き換えることができれば良いわけです。
認知行動療法は、構造化されたセッションで目的を現在の適応に絞るので、従来のカウンセリング主体の精神療法より、短期間に終結させることが可能です。患者さんは、治療者と共同して認知の歪みを探し、宿題として「どのような状況で困った行動が起こるのか」、「その時にどのような感情を持つのか」、「これまでとは違った対処方法をとった時の効果」など、自分を客観的に観察し、記録し、報告し、ロールプレイなどの実践的な練習を積んで行きます。
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