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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・MRSA


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・MRSAってどんな病気?

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症

 

イメージ画像 正式にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症といいます。ホームページ作成上の理由で、病名が長くて入りきらなかったので、「感染症」の部分を省略しました。
 MRSAは、Methicillin Resistant Staphylococcus Aureusの略です。以後、MRSAと表記します。

普段は無害な細菌

 

 黄色ブドウ球菌は、ヒトや動物の皮膚、鼻腔内、消化管内などの体表面に存在するグラム陽性球菌です。普段は無害ですが、常在するブドウ球菌の中では毒性が高い部類に入ります。

日和見感染

 

 病院内などで免疫力が低下した患者さんが日和見感染を起こすことがあります。発症してしまうとほとんどの抗生物質が効かないため、治療は困難になります。特に、術後の創部感染、骨髄炎などの骨感染、感染性心内膜炎、臓器膿瘍は難治性化し、適切な治療を受けられないと後遺症ばかりか、死んでしまうこともあります。
 院内感染の場合、感染者の治療も重要ですが、感染をこれ以上広げないことも重要です。


日和見感染とは?

日和見感染

 

イメージ画像 感染は、原因となる病原体がヒトの体内に侵入し、増殖することで起こります。しかし私たちの周囲の環境には多くの微生物が生息し、腸管内を始めとして体内にも多くの常在菌を保有しています。
 ヒトの体内では、感染を防衛する仕組みが上手く働いているため、感染を防いでいます。この仕組みを一般的に免疫と呼びます。免疫が上手く働いている状態では、体内の微生物は抑え込まれ、大人しくしています。しかし免疫機能が衰えてくると、毒の弱い病原体でも、体内で増殖し感染を起こすことがあります。
 免疫機能の低下した状態で、弱毒の病原体によって起こる感染症を日和見感染と呼びます。

免疫と病原体

 

 免疫はさまざまな仕組みによって成り立っています。大別すれば自然免疫と、獲得免疫の2つがあります。
 自然免疫は好中球(こうちゅうきゅう)、マクロファージ、補体(ほたい)などが働き、病原体が体内に入ってきてもすぐに対応でき、どんな種類の病原体にも広く対応しています。
 獲得免疫はリンパ球がおもに働き、特定の病原体に効率よく対応しますが、初感染の場合は早い対応は難しいという側面を持っています。獲得免疫は、抗体を利用する液性免疫と、感染している細胞を攻撃する細胞性免疫に分類されます。
 免疫機能が低下すると、免疫の中のどの部分が障害を受けるかにより、感染を起こしやすい病原体の種類も異なります。
 肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などに対しては、好中球、マクロファージなどによる自然免疫と抗体による液性免疫が重要です。
 ウイルス、真菌、結核菌などに対しては細胞性免疫が重要で、HIV感染症や臓器移植後は、細胞性免疫の低下により、サイトメガロウイルス感染、カリニ肺炎、消化管カンジダ症、肺結核などの感染を起こす確率が高くなります。
 先天性の免疫不全によって免疫機能が低下している場合、小児期から何度も感染を繰り返したり、重症の感染に陥ったりします。

治療法

 

 抗菌薬を使って感染している病原体を抑え込むことが重要になります。しかし日和見感染は免疫不全状態の上に成り立つ感染症のため、免疫グロブリンという抗体を投与したり、G-CSFという白血球を増加させる薬を使用するなど、免疫機能を高める工夫も必要になります。
 免疫不全を起こす元となる病気を改善しなければ、感染症を起こす確率は高くなってしまい、治療も困難な場合が多いのが現状です。


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・MRSAの原因は?

耐性の獲得

 

イメージ画像 黄色ブドウ球菌は、1940年代に量産化したペニシリンGが有効で、化膿傷や肺炎などの治療に効果がありました。しかし、同じころにプラスミド依存性にペニシリナーゼを産生するペニシリン耐性株が出現し、ペニシリンの普及にともなって世界各地に広がりました。
 これに対抗するためメチシリンが開発され、1960年代から欧米で使用されるようになりました。しかし間もなくメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が出現しました。ペニシリン耐性株と同じように世界各地に広がり、1970年代後半から海外の医療現場で大きな問題となってきました。
 国内では1980年代の後半から、各地の医療施設でMRSAが問題となり始めました。当時の黄色ブドウ球菌は1割程度が耐性を持つと考えられていましたが、現在では、黄色ブドウ球菌の約6割がMRSAと判定されています。

減らない院内感染

 

 最近ではMRSA感染症がマスコミなどで話題になることはまれになりましたが、医療現場でのMRSAによる院内感染症は減少していません。
 2001年のMRSA感染症の報告件数は、1定点施設あたり約40件です。VRE感染症、PRSP感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症などと比べると、格段に高いといえます。年間の報告総数は約18000件で、毎月平均1500件以上が報告されいます。2003年11月に施行された感染症法一部改正により、5類感染症の起因菌の中にMRSA株が指定され、定点施設においてMRSA感染症例が発生した場合には報告を求められるようになりました。
 内科系より外科系の疾患のある患者さんで問題となる場合が多いです。骨折後の骨髄炎、開腹、開胸手術後の術後感染などでは治療困難な例も多いくあります。血液疾患、ガンなどの悪性消耗性疾患を持つ患者さんの場合、リスクが高くなります。
 新生児や高齢者などもハイリスクグループとなります。新生児室などでMRSAが蔓延し問題となることもありますが、手袋の使用、手洗いなど、適切な対策でMRSAの感染は改善することができます。

まとめると・・・

 

 つまりMRSAは、多くのペニシリン系やセフェム系薬に耐性を示す黄色ブドウ球菌株です。栄養の少ない乾燥した周囲環境でも長期間強い感染力を保つことができます。医療従事者の手指、医療器具を介して院内感染の原因となりやすいです。保菌部位からの内因性感染もあります。医療従事者、市中健常者の持続性鼻腔保菌も問題となります。
 MRSAは、入院患者が感染するか、保菌する黄色ブドウ球菌の約60%を占めます。


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・MRSAの症状は?

健康なら治療の必要なし

 

イメージ画像 MRSAの病原性は、通常の黄色ブドウ球菌と比較して特に強いわけではありません。同程度の各種感染症を引き起こします。
 通常の感染防御能力のある健康な人に対しては無害です。保菌者であっても、医療施設外で日常生活が可能な場合は、抗菌薬投与は必要ありません。抗菌薬を使用しない老人施設など長期療養型の施設でも、MRSAが黄色ブドウ球菌をしのいで優位に蔓延する可能性は高くありません。

基本的に黄色ブドウ球菌と同じ

 

 免疫力が低下した患者さんのMRSA感染症に対しては、抗菌化学療法を実施します。しかし、各種の抗菌薬に抵抗性を持つため、重症化する事例が多く、医療現場では恐れられています。
 皮膚の切創、刺創などにともなう化膿症や膿痂疹毛嚢炎、セツ、癰(よう)、蜂巣炎(おうそうえん)などの皮膚軟部感染症。肺炎、腹膜炎敗血症髄膜炎などさまざまな感染症の原因となっています。エンテロトキシン、TSST-1などの毒素を産生するため、食中毒、トキシックショック症候群、腸炎などの原因にもなっています。


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・MRSAの診断は?

健康なら治療の必要なし

 

イメージ画像 黄色ブドウ球菌の同定と、メチシリンに対する感受性試験によって診断します。特殊な検査ではなく、一般病院でも可能な検査です。


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・MRSAの治療法は?

基本的な治療法

 

イメージ画像 代表的な治療薬はバンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシンです。さらに2006年4月、リネゾリドが新薬として承認されました。日本では適応されていませんが、欧米ではキヌプリスチン・ダルホプリスチン(シナシッドR)が使用を認可されています。
 菌種によっては、ミノサイクリン、レボフロキサシン、クリンダマイシン、ST合剤(スルファメトキサゾール、トリメトプリムの合剤)などが、有効か中等度有効なことがあります。
 「抗菌薬使用のガイドライン」ではバンコマイシン、アルベカシンが第一選択薬となり、効果がなかった場合などにテイコプラニン、リネゾリドを使用するよう推奨されています。
 80%エタノールが消毒薬として有効です。ほとんどの抗生物質が効かないため、感染症は難治性となります。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)

 

 バンコマイシンは耐性菌の出現が少ない抗菌薬としてMRSAの治療に使われてきました。
 しかし2005年、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)やバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現が報告されています。
 近年では黄色ブドウ球菌は、アルベカシン耐性株やムピロシン耐性株も報告があり、今後の動向に警戒が必要とされています。


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・MRSAかなと思ったら?

治療が難しい

 

イメージ画像 有効な治療法は限られています。基本的に入院が必要になりますが、他の患者さんに感染を広げないことも重要になります。
 感染症法に基づいて、保健所への届出が必要です。

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