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全身症状 ・全身倦怠感 ・原因不明の発熱 ・寝汗 ・体重減少 ・慢性下痢 ・全身リンパ節腫大 ・肝・脾腫 前進各部位の感染 ・間質性肺炎 ・腸炎 ・脈絡網膜炎 ・皮膚潰瘍 ・帯状疱疹 ・リンパ節結核 ・敗血症 ・脳炎 ・髄膜炎 ・食道炎 腫瘍 ・カポジ肉腫 神経症状 ・脳・髄膜の炎症による神経障害 ・痴呆
さまざまな呼称で呼ばれる病気です。エイズ、AIDS、後天性免疫不全症候群、HIV感染症、ヒト免疫不全ウイルス感染症などと呼ばれています。正式名称は厚生労働省によると、後天性免疫不全症候群になります。 免疫不全症状を示すようなになった状態を、エイズと呼びます。 ヒト免疫不全ウイルスはHIVと呼ばれ、HIVはHuman Immunodeficiency Virusの頭文字です。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によって起こる病気です。 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)には、1型と2型がありますが、日本国内で流行しているのは1型です。 ヒト免疫不全ウイルス感染症は性感染症で、男女間、または男性同士の性行為によって感染します。 血液を介して感染することから、感染した母親から出産時に、新生児に感染することもあります。 薬物中毒者の場合、血液で汚染された注射針の使い回しで感染することもあります。 法律では、全例を報告する病気と決められています。
HIVは、免疫を制御するT細胞、マクロファージ、樹状細胞などのCD4陽性細胞に選択的に感染し、自らの遺伝子をヒトの遺伝子に組み込みます。 その後、CD4陽性細胞を破壊しながら増殖します。一部の感染細胞は、破壊されることなく休眠し、ヒトの体内で長期間に渡って潜伏してしまいます。 CD4を持つリンパ球は免疫機能の要となる細胞のため、この細胞が破壊されると、やがて免疫不全になります。 HIVに感染しても、すぐにエイズにはなりません。症状が現れるまでに10年以上も症状がなく、元気に社会活動を行える時期があります。必然的にHIV感染者と感染していない人が、共存しています。 このため、HIV感染症は自然治癒することはなく、薬剤治療でも完治させることができません。
HIV感染者の血液、精液、膣(ちつ)からの分泌液には、他の人に感染するだけの量のウイルスが存在します。 これらの体液との濃厚な接触があった時に、人から人へと感染します。 HIVの感染経路は、3つあります。
もっとも多い感染経路は、HIV感染症にかかっている人との性行為による感染です。 男女、どちらへも感染します。欧米では同性愛の男性間に広がりましたが、現在では全世界的に異性間接触による感染が主流になっています。 出血しやすい性交渉のスタイルをとったり、コンドームなどの防御をしない性交渉では、感染率が高くなります。 梅毒やヘルペスなど、他の性感染症のため、局所の粘膜防衛が壊れていると、感染しやすくなります。
性行為の次に多い感染経路は、HIVが含まれている血液との濃厚な接触です。HIVを含む血液の輸血、非加熱血液製剤の注射、注射器の使い回し、針刺し事故があります。 現在では、輸血用の血液や、血液製剤の血液は、事前に検査を行い、HIVのないことが確認されているため、輸血や血液製剤の注射でHIVに感染することはありません。 消毒せずに同じ注射器を使うと、以前に注射した人の血液が残っているため、感染してしまいます。麻薬や覚醒剤の回し打ちでは、注射器によって感染が広がります。東南アジア、アメリカ、南ヨーロッパなどでは、麻薬や覚醒剤の回し打ちによる感染が少なくありません。医療機関では、注射器も注射針も使い捨てになっているため、感染することはありません。
3つ目は、HIVに感染している母親から新生児への母子感染です。 妊婦が感染していると、胎盤を介して胎児に、出産時には母体の血液を介して新生児に感染することがあります。 現在では、妊娠中期の妊婦に抗HIV剤を使うなどの治療で、母子感染率を10%以下に下げられるようになりました。
HIV感染というと、特別な人の病気というイメージで誤解されていますが、感染の機会さえあれば誰にでも感染し、感染の機会がなければ誰も感染しません。 感染予防ができる病気でもあります。 正確な感染率は不明ですが、1回の輸血で70%〜80%、母子感染は50%、注射器の回し打ちは1%〜3%、性交渉は1%と推定されています。
性感染症は性行為によって伝播(でんぱ)する感染症です。原因病原体はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)、B型肝炎ウイルスなどのウイルスのほか、原虫、細菌、寄生虫まで、多岐に渡ります。 罹患率は増加傾向にありましたが、2002年をピークにして減少傾向にあります。
最近では、クラミジアと淋菌(りんきん)が、性感染症の代表的な原因病原体です。 クラミジア感染症は症状に乏しいことも多いため、調査から性風俗とは無関係の若年者の感染が増加しています。性感染症は、性風俗による特別な感染症ではないことを認識する必要があります。 淋菌感染も増加傾向にあり、薬剤耐性菌(やくざいたいせいきん)が問題となっています。
HIV感染症には、特徴的な症状がありません。 感染後、10日後〜14日後に起こる急激なウイルス増殖に対する免疫反応として、発熱、倦怠感(けんたいかん)、頭痛、関節痛、発疹、リンパ節の腫大、一過性の末梢血リンパ球低下など、一般的なウイルス感染症の症状がみられることもありますが、無症状のことの方が多いです。 発熱、喉の痛み、リンパ節の腫れ、発疹などの症状で、気付くこともありますが、その後は自覚症状のないまま病気は進行します。 特徴的な症状がないため、HIVに感染したことに気が付かないことが多いです。
感染後2週間〜12週間で、HIVを排除しようとする中和抗体(ちゅうわこうたい)が作られますが、駆逐することができません。 5年前後の時間をかけて、免疫力を奪っていきます。 この期間、無症状で経過することが多いです。HIV-1では、生体内で盛んに増殖するため、血液検査で白血球数や血小板数の減少がみられることもあります。自覚症状がなくても、人にHIVを感染させる能力はあります。 免疫力が低下し帯状疱疹などの感染症にかかりやすくなりますが、健康な人でもかかるので、この時期にHIV感染に気付く人は少ないです。 病気の進行に従って、CD4陽性細胞数が減少し、免疫力が低下し、発熱、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などの症状がみられるようになります。
感染後7年〜8年で、ウイルスが再び血液中に現れ始め、発熱、下痢、頭痛、疲労感、全身のリンパ節が柔らかく大きく腫れる、寝汗をかきやすいなどの症状が現れます。 カンジダによる口内炎のため、口蓋(こうがい)、頬粘膜、咽頭に、直径0.5cm程度の白斑ができ、飲食時に痛みます。 これらの症状は、エイズ発症の一歩手前の状態で、エイズ関連症候群(ARC)と呼ばれます。 健康な時にはまったく心配のない細菌、ウイルス、カビ、原虫などに感染する日和見感染症を起こしやすくなり、エイズに進行する危険性がさらに高まります。 エイズ関連症候群の症状がみられず、いきなりエイズを発症する患者さんもいます。
感染から8年以降、細胞性免疫が低下すると、これまで抑えられていた感染症や腫瘍が発生し、エイズを発症します。母子感染では、生後3ヶ月〜23ヶ月の早期にエイズを発症します。 半数以上の人は、ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)になります。ニューモシスチス肺炎は階段を上る時の息切れが初発症状で、2週間〜3週間で平地を歩く時にも息切れするようになり、発熱も現れます。早期に診断してST合剤か、ペンタミジンで治療すれば、3週間〜4週間で治癒します。 エイズを発症してからかかりやすい感染症には、結核、非定型抗酸菌症、反復する肺炎など発熱を主症状とするもの、クリプトコッカス髄膜炎やトキソプラズマ脳炎のように発熱と意識障害のあるもの、原虫による激しい下痢、サイトメガロウイルス網膜炎などがあります。 感染症の多くは、早期に治療すれば治癒し、抗エイズ薬が効いて免疫機能がある程度回復すれば、感染症も治まってきます。 カポジ肉腫は、皮膚から盛り上がった赤褐紫色の腫瘍で、ほとんどが同性愛のエイズ患者にみられます。カポジ肉腫は皮膚だけでなく、内臓も侵します。 脳にリンパ腫が発生することもあります。HIVが中枢神経系に感染すると、外界に対する注意力の欠如や無関心が現れ、まもなく寝たきりとなるエイズ脳症(エイズ痴呆)を発症します。
診断は、血清学的な検査によって行われます。 血液中にあるHIV-1の蛋白に反応する特異的抗体、HIV-1抗原自体を検出することによって診断します。
血清学的診断にも、問題点があります。HIVに感染してから特異的抗体が検出されるまで、約1ヶ月かかってしまいます。 このため、感染急性期には血清学的診断では、診断できないことがあります。 この空白の1ヶ月は、ウィンドウピリオドと呼ばれています。 ウィンドウピリオドの問題は、急性感染が見落とされるだけではなく、輸血用血液の汚染の可能性があるなど、多くの問題を含んでいます。
最近ではウィンドピリオドの問題を解決するため、血清学的診断だけではなく、HIV-1のRNA(リボ核酸)を増幅検査する方法も併用されています。 女性の場合、妊娠時には血清学的検査の擬陽性が出やすいため、検査の判定には注意が必要になります。
血液中にHIVに対する抗体の有無を調べる抗体検査は、免疫酵素法(ELISA法)と免疫クロマト法が用いられます。 抗体がHIV抗体かどうかを調べるウエスタンブロット法、蛍光抗体法を行います。 HIVの抗原を確認する核酸増幅診断法(HIVのRNAを検出する検査)、ウイルス分類法があります。 これらの検査を組み合わせることによって、抗体が十分に作られていないHIV急性感染期でも診断できるようになりました。
HIV感染が確認されたら、免疫能力を評価するため、CD4陽性リンパ球数を測ります。HIVの活動性を推測するために、HIV-RNA量の測定を定期的に行います。 この2つの検査結果を参考にして、治療方法を決め、治療効果の判定を行います。 CD4陽性リンパ球数が200/μlほどに減少すると、日和見感染を起こしやすくなります。このため、日和見感染症や悪性腫瘍の有無の検査も必要になります。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、エイズの原因となるウイルスです。 HIVに感染すると、身体を守る免疫系細胞のヘルパーT細胞、リンパ球の一種であるCD4陽性細胞が感染し、免疫機能が障害されたり、破壊されたりして、免疫不全になります。
HIV感染症の初期症状は、風邪に似ていることもありますが、無症状に経過することもあります。 口の中には、真菌であるカンジダによる感染が起こります。舌や頬の粘膜に白い苔(こけ)のような病変が起こります。歯肉には壊死(えし)と潰瘍(かいよう)が起こり、疼痛、自然出血、浮腫(ふしゅ)などが起こります。急性壊死性潰瘍性歯肉炎(きゅうせいえしせいかいようせいしにくえん)や、歯周炎と良く似た症状のため、鑑別診断が必要になります。 進行すると、発熱、体重減少、持続性の下痢などエイズの症状が現れます。さらに病気が進行すると、カリニ肺炎、カポジ肉腫、悪性リンパ腫などが現れます。
HIV感染症の治療薬は、多数開発されています。現在、22種類が開発されています。 逆転写酵素阻害薬(ぎゃくてんしゃこうそそがいやく)が12種類、プロテアーゼ阻害薬が8種類、インテグラーゼ阻害薬が1種類、HIVが感染する時に利用するCCR5レセプターを狙ったCCR5阻害薬が1種類あります。 これらの薬剤を、3種類以上組み合わせた多剤併用療法が、標準的な治療法になります。
多剤併用療法は良好な効果を上げています。多剤併用療法が始まってから、エイズで死亡する患者さんの数は、大幅に減少しました。 多剤併用療法でもHIV感染症は完治させることはできないため、患者さんは生涯、薬を飲み続けなくてはいけません。 日和見感染などの合併症に対する治療も行います。免疫を活性化するための治療も試みられていますが、まだ有効な治療法は開発されていません。
多くの例でHIV感染症の進行を止め、ある程度の免疫機能の回復までできるようになりましたが、免疫機能の回復が得られない例もあります。早期に感染き気付いて治療を受ければほぼ100%発症を抑えられますが、強い副作用、慢性の毒性といった新たな問題も出てきています。 エイズを発症して初めてHIV感染に気付いた人でも、きちんと治療を受ければ、血液中のウイルス量が減少し、免疫機能が回復し、エイズ発症前の状態に戻り、社会生活や家庭生活を送ることができます。 また、HIVは薬に対して抵抗性のある薬剤耐性を獲得しやすいため、薬剤耐性HIVも出現しています。処方された薬は処方通りに正確に服用しなくてはいけません。 日和見感染症や、他の合併症の治療法も改善されていますが、治療法のない合併症も存在します。 HIVを殺す薬剤は、まだ開発されていません。 未解決の問題を抱えてはいるものの、HIV感染症の進行を止めている例、たとえ発病しても再び社会復帰できるようになった例が増えています。 HIV感染症の治療に関するガイドラインは、ほぼ半年毎に改定されています。
HIVの感染経路は限られています。しかし感染経路は、性行為など、人の生活に密着した行為でもあります。 子供を作る目的の性行為ではコンドームを使用することはできませんが、それ以外の性行為ではコンドームの使用が予防には有効になります。避妊以外にも、あらゆる性感染症の予防にも有効なので、コンドームを使用するようにしてください。
HIV感染に関する全般的な知識を得ること、自分の行動を再確認すること、HIV感染者を理解すること、病気との闘いを支援することは、HIV感染症の拡大を予防する上で有効な手段となります。
HIV感染者が触った吊り革、手すり、便座、食器類、風呂、身の回りの器具や品物などを使っても、HIVに感染することはありません。 空気感染することもありません。 家族、職場、学校などでHIV感染者と一緒に生活していても、HIVに感染することはありません。
HIV感染症を予防するワクチンの開発は、現在では暗礁に乗り上げており、実現しておりません。 HIVを物理的に殺す抗ウイルス薬の開発も、まだできていません。
HIVに感染したんじゃないかと心配なら、最寄りの保健所や病院に相談するようにしてください。 保健所では、匿名で無料のHIV検査を受けることができます。 検査は、通常の採血と同じで、約5mlの血液を採血して検査します。
献血をHIV検査の代わりに受けるようなことはしないようにしてください。
治療計画を主治医と一緒に作り、適切な時期に、適切な治療を行うことが重要です。自分の症状に注目して、合併症の徴候を見逃さないようにしてください。 適切な栄養と運動で、病気に負けない体力を作り、病気に負けない気力を保つことも大切です。 家族など、味方になる人を作ることが、大きな力になります。
HIV感染症の治療法は日々進化しているので、社会福祉制度、世の情勢などの情報を入手します。また一方で、個人情報は自分で管理し、守るようにしましょう。 他の人にHIVを渡さないようにし、自分の感染源を自分で管理できるように、自分の行動を変え、自分の免疫状態、HIVの活動性を知り、それに応じた生活管理を行います。 一人だけで病気と闘わず、同じ立場の人と交流を図るなどすると良いでしょう。医療機関、NGOでは、患者さんの諸事情を勘案し、その人に合った指導と助言をしています。
HIV感染者は、免疫障害の程度、日常生活上の障害の程度に応じて、身体障害者認定の申請が可能です。障害者手帳、障害年金の交付が受けられます。 自立支援法の対象にもなっており、所得に応じた自己負担金がありますが、医療費を軽減することができます。
HIV感染症は慢性の感染症で、感染者と未感染者は、社会で共存することになります。多くの国では、HIV感染者が社会活動に参加しています。 HIV感染症は誤解されてしまうことも多く、HIV感染者に対する偏見や差別が存在します。HIV感染者は、HIVと戦うだけでなく、HIV感染症を理解していない人、組織、制度とも戦わなければいけないのが現状です。 自分の健康や生命についての不安を抱えている上、個人情報の漏洩の恐怖、疎外感、将来の人生設計の困難、治療費などの経済的困難に直面しています。家族や友人と、どのように関わればよいのか悩んでいる人もいます。 HIV感染者から打ち明けられた場合、まずその人の勇気を評価するようにしてください。安心して相談できる人だと思われたので、打ち明けられたわけです。感染者の気持ちを理解し、病気と闘う努力を評価し、その中から立場に応じた感染者との接し方を考えるようにしてください。