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肺炎は、「肺胞性肺炎」と「間質性肺炎」に分類することができます。
原因となる病因微生物・ばい菌・病原体などの種類によって、「細菌性肺炎」、「ウイルス性肺炎」、「マイコプラズマ肺炎」、「クラミジア肺炎」、「真菌性肺炎」、「寄生虫肺炎」などに分類されます。
病理形態学的な分類では、肺炎球菌、クレブシエラによる「大葉性肺炎」。黄色ブドウ球菌、嚥下性肺炎、高齢者や脳血管障害のある人に多い連鎖球菌性肺炎などの「気管支肺炎」に分類されます。
患者さんの生活背景による分類では、「市中肺炎」・「在宅肺炎」・「在宅肺炎」と、「院内肺炎」に分類されます。 市中肺炎とは、通常の社会生活を営んでいる人にみられる肺炎です。 院内肺炎とは、入院している患者さんが糖尿病、ガン、エイズ、外科的手術後など基礎疾患があったり、副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬などの治療によって感染しやすくなり、病院内で感染した肺炎です。
病原微生物が肺胞に侵入して増殖し、肺胞壁に滲出性変化(しんしゅつせいへんか)を引き起こしたものです。 小児細菌性肺炎の原因菌は、乳幼児期では肺炎球菌、インフルエンザ菌によるものが多く、学童期では肺炎球菌、マイコプラズマによるものが多くなります。
肺炎の中で、もっとも頻度の高いものが細菌性肺炎です。 風邪症候群に引き続いて起こる市中肺炎では、肺炎球菌、インフルエンザ菌、ミレリグループの連鎖球菌によるものが多くなっています。 慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症などの病気を持つ患者さんは、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラキセラ(ブランハメラ)、緑膿菌による肺炎の頻度が高くなります。 院内肺炎では、発症前に抗菌薬・抗生物質が使用されていると、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの耐性菌の頻度が高くなります。
マイコプラズマ肺炎は15歳〜25歳の若年者に比較的多い傾向があります。頑固な乾いた咳が特徴です。
鳥類との接触歴のある人に多い傾向があります。高熱、乾いた咳、頭痛、筋肉痛などの症状が特徴です。
肺炎を起こすウイルスは、向肺性ウイルスと呼ばれる呼吸器系ウイルスの頻度が高く、インフルエンザウイルスがその代表です。これに引き続いて、肺炎球菌やインフルエンザ菌の二次感染による肺炎がほとんどです。このような場合、インフルエンザ後肺炎と呼びます。
原因別死亡率では、肺炎は第4位に位置しています。肺炎で死亡する患者さんの92%は、65歳以上の高齢者です。肺炎によって死亡する患者さんのほとんどは、高齢者になります。
高齢者では、健康な若年者に比べて、身体的・知的な活動性が低下していたり、糖尿病、慢性呼吸器疾患、心不全、肝不全、腎不全といった慢性の臓器不全を基礎疾患として抱えている割合が増加します。 そのため、口腔内では通常存在する嫌気性菌(けんきせいきん)に代わり、病原性の高い細菌が増加します。 身体的条件は、高齢者になればなるほど多く当てはまるので、高齢者の口の中には病原性の強い最近が存在する可能性が高くなります。
食べ物を食べたり、飲み物を飲んだりすると、嚥下運動によって胃にスムーズに運ばれ、間違って気管に食べ物などが入ると咳によって外に排出されます。肺には誤嚥から守る防衛機能は、加齢だけでは変化しません。 しかし、脳梗塞や脳出血のような脳血管性障害があると、睡眠中に飲み込みが悪くなり、本人や周囲もわからないうちに起こる少量の不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)が繰り返し起こります。脳梗塞があると、寝ている間に咳が起こりにくくなります。 高齢者が5時間寝た場合、その間に唾液は30cc〜90cc分泌されると言われています。唾液などの分泌物は、無意識のうちに飲み込まれます。しかし脳梗塞があると、睡眠中に飲み込みが悪くなるため、咽頭の周囲に唾液などの分泌物が溜まりやすくなります。咽頭近くでは気道が開口しているので、息を吸った時に溜まっている唾液などの分泌物も気管の中に吸い込んでしまいます。 唾液や分泌物を吸い込んでも、咳が起これば外に排出され肺炎は起こりにくくなりますが、脳梗塞のある人では咳が起こりにくくなっています。そのため、唾液などの分泌物は肺の奥の方に入って、肺の中に溜まってしまいます。高齢者の唾液や分泌物には病原性の強い最近が多く含まれているので、繰り返し誤嚥が起きると肺炎になります。
脳ドックなどで検査すると、脳梗塞の既往歴がないのに小さな梗塞巣(こうそくそう)が見付かります。神経症状がない無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)と呼ばれます。 無症候性脳梗塞の人は、脳梗塞のない人に比べて肺炎にかかる確率が高くなります。脳梗塞の程度が進むほど、肺炎の発症率は高くなります。 高齢者が肺炎になる最大の原因は、脳血管性障害にあると考えられています。
肺炎は肺の局所症状だけでなく、併発する上気道感染症状・下気道感染症状と重なることが多くなります。全身症状としては、発熱、悪寒、頭痛、関節痛などがあり、呼吸器症状としては、咳、痰、胸痛、呼吸困難などがあります。肺の下部の肺炎では、腹痛などの消化器症状がともなうこともあります。 肺炎球菌性肺炎では、悪寒、頭痛、咳、痰を5大症候とされています。このほか、頭痛、全身倦怠感、食欲不振などの全身症状がみられます。
痰は粘性膿性から、のちに特異的な錆色の痰になります。 肺炎の重症度は、呼吸困難の程度、チアノーゼの有無、意識障害の有無などによって判断されます。
検査所見としては、白血球増加、核の左方移動、CRP高値などの炎症反応が特徴的です。 ウイルス性肺炎では、異形リンパ球の出現がみられ、マイコプラズマ肺炎では寒冷凝集反応が上昇します。
胸部エックス線検査では、エアブロンコグラムと呼ばれる気管支空気像・気管支内空気、肺胞空気像をともなう浸潤陰影が見られます。 間質性陰影は、ウイルス、マイコプラズマ、クラミジア肺炎に多くみられます。すりガラス、網状、粒状陰影を示します。
痰の検査をして、肺炎の原因菌を探します。 うみ状の膿性痰では、細菌感染症が疑われます。 細菌培養検査、グラム染色、痰の染色所見、血清診断(抗体価)の検査を行います。肺炎球菌、レジオネラの尿中抗原検出キットでは、迅速診断が可能です。
外来での治療も可能ですが、発熱が持続し、咳が強く水分も十分に摂れないほど全身状態が良くない場合は、入院治療が必要になります。 おもに行われる治療法は、化学療法です。免疫グロブリン製剤やG-CSF製剤などを使った補助療法、呼吸管理なども重要です。 体力の弱っている高齢者では、口から薬を飲み込むことができずに、食欲不振が増して誤嚥性肺炎を併発し、症状を悪化させてしまうことがあります。即効性があり確実な、抗生物質の経静脈的投与・血管注射投与が行われます。
肺への移行が良い薬としては、マクロライド、クリンダマイシン、テトラサイクリン、リファンピシン、ニューキノロン系薬剤、アミノ配糖体系抗菌薬があります。 肺炎球菌、連鎖球菌では、ペニシリン、マクロライド、セフェム系抗生物質が効果的です。 黄色ブドウ球菌では最近、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が増加しています。薬が効かない多剤耐性菌の場合、バンコマイシンが使用されます。 マイコプラズマ肺炎では、テトラサイクリン系、マクロライド系抗生物質が効果的です。
全身の栄養状態の改善、痰が出にくい時の療法、脱水に対する処置、低酸素血症に対する酸素療法などが必要になります。 症状によっては、人工呼吸管理を必要とする場合もあります。
高齢者の肺炎を予防するには、口の中を綺麗にすることが大切です。毎食後の歯磨き、うがいなどの口腔ケアを行っている高齢者では、口腔ケアを行っていない高齢者に比べて肺炎にかかる確率が下がります。
脳梗塞の程度が進むと肺炎罹患率も増加します。高齢者の肺炎は、肺の病気ではなく、頭の病気と言い換えることもできます。 抗血小板薬などで脳梗塞の進展を抑えることも肺炎を予防する方法として有効です。高齢者の肺炎の原因が脳血管障害が多いので、脳血管障害を予防することが肺炎の予防にも繋がります。 脳血管性障害の原因は糖尿病や高血圧など、生活習慣病によって引き起こされます。生活習慣病のコントロールが肺炎予防の最善策です。日常生活から適度な運動、バランスの摂れた食事、節度ある生活を心がけるようにしましょう。
呼吸器専門医のいる病院、特に呼吸器専門病院などを受診するようにしましょう。