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 慢性膵炎

慢性膵炎の概要は?
おもな症状
  上腹部の頑固な痛み(80%〜90%の患者さん)
口の渇き
多尿
体重減少など糖尿病に伴う症状(約50%に糖尿病を合併)
消化吸収の衰え
脂肪便(脂肪分を摂り過ぎた場合)
症状が似ている病気
  胃潰瘍・十二指腸潰瘍
慢性胃炎
胆石症
結腸過敏症
尿管結石
狭心症
糖尿病
甲状腺機能亢進症
起こりやすい合併症
  糖尿病
急性膵炎
膵嚢胞
膵ガン
肝障害
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
肺結核

慢性膵炎ってどんな病気?
膵臓の細胞の破壊
  イメージ画像 継続的なアルコールの多飲などによって、膵臓に持続性の炎症が起こります。そのため、膵臓の組織が破壊されて、実質の脱落と、膵臓の細胞が壊れて線維が増えて硬くなる線維化が引き起こされる病気です。
 このような変化の多くは、元に戻りません。
慢性膵炎の傾向
   1999年に慢性膵炎で医療機関を受診した患者さんの数は4万2000人で、人口10万人で33.2人の罹患率と推定されています。
 慢性膵炎は以前では、男性に非常に多い病気でしたが、現在では女性の患者さんの増加が目立ちます。男女比は2:1とされています。
 発症年齢では男性が50代、女性が60代にピークがみられます。

慢性膵炎の原因は?
おもな原因
  イメージ画像 急性膵炎と同様に、アルコール多飲によるアルコール性の原因が54%で、もっとも多くなります。次いで原因不明の特発性が30%、胆石性が4.4%と続きます。
 男女別の原因では、男性ではアルコール性が69%であるのに対して、女性では特発性が63%ともっとも多く、男女差が明らかです。
自己免疫性膵炎
   近年では、自己免疫異常による自己免疫性膵炎が注目されています。従来では特発性膵炎とされていた中に、自己免疫性膵炎の患者さんが含まれていると考えられます。

慢性膵炎の症状は?
腹痛と腰背痛
  イメージ画像 典型的な初期症状としては、上腹部痛、腰背部痛があります。腹痛はみぞおちから左の脇腹を中心とした痛みが多く、持続的で左右の肩に広がることもあります。
 疼痛は頑固で持続性ですが、間欠的に生じるものもあります。また、程度も軽度なものから高度なものまで、人によってさまざまです。
 そのほかの症状としては、吐き気、嘔吐、食欲不振、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)などがあります。
圧痛と叩打痛
   診察時には、上腹部を中心に押すと痛む圧痛がみられます。
 また、背中の中央あたりをこぶしでポンポンと叩かれると、背部から腹部にかけて広がるような痛みを感じる叩打痛(こうだつう)がみられます。
食後や飲酒後の痛み
   疼痛などは、油分の多い食事の食後、飲酒後に比較的起こりやすい傾向にあります。ですが、とくに何の誘因もなく突然起こることもあります。
 またまれにですが、まったく痛みのない慢性膵炎も存在します。
痛みがあるのは初期
   上腹部痛や腰背部痛などの痛みの症状は、膵臓の機能が比較的保たれている早期(代償期)にみられる症状です。
 膵組織が破壊され、膵機能が著しく低下した後期(非代償期)には、あらわれなくなります。
後期の症状
   慢性膵炎の後期(非代償期)には、膵臓の外分泌機能不全(がいぶんぴつきのうふぜん)による消化吸収障害としての脂肪性下痢、体重減少、全身倦怠感がみられます。
 あるいは、内分泌機能不全(ないぶんぴつきのうふぜん)によってインスリン分泌低下が起こり、口の渇き、多尿、黄疸、糖代謝障害・膵性糖尿病(すいせいとうにょうびょう)がみられるようになります。

慢性膵炎の診断は?
慢性膵炎臨床診断基準
  イメージ画像 日本膵臓学会による慢性膵炎臨床診断基準が作成されています。
 慢性膵炎臨床診断基準によれば、慢性膵炎の診断の確かさの程度によって、確診例、準確診例、疑診例の3つに分類されます。
確診例
   確診例とは、以下の通りです。以下のいずれかが証明されれば、確診例とされます。
超音波検査・CTの画像診断によって膵石が認められる
ERCPの内視鏡的膵胆管造影によって膵管の不整拡張や狭窄が認められる
セクレチン試験の膵外分泌機能検査によって明らかな膵機能低下が認められる
膵組織所見で膵実質の減少と線維化が認められる
準確診例
   準確診例は、確診例で挙げた検査所見の程度が確診例ほどではないものの、かなりの異常がみられるもののことです。
疑診例
   疑診例は、準確診例よりもさらに程度が軽く、おもに各症状と膵酵素異常などが認められるもののことです。
磁気共鳴膵胆管造影
   近年になって、非侵襲的に膵管を描出できるMRCPと呼ばれる磁気共鳴膵胆管造影による診断基準も作成されました。ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)の代わりに、苦痛の少ないMRCP検査が用いられています。
 しかし、MRCPで確診できるほどの精度はありません。
個人差の大きい症状
   慢性膵炎臨床診断基準では、疼痛などの症状、血液、尿などの臨床検査所見は、慢性膵炎の診断のきっかけになりますが、診断基準には入れられていません。
 慢性膵炎の症状はさまざまで、個人差も大きく、アミラーゼなど膵酵素の変動も症状と必ずしも一致するわけではなく、一定しないためです。
臨床診断基準の問題
   慢性膵炎の早期には、膵臓の形・形態や、膵臓の機能に異常が少ないので、慢性膵炎臨床診断基準の確診例、準確診例に当てはまる症例が少なくなっています。
 このため、早期の慢性膵炎の診断は困難で、慢性膵炎臨床診断基準では、ある程度進行したものしか診断できないという問題があります。

慢性膵炎の治療法は?
おもな療法
  イメージ画像 症状に対する治療、原因の除去、再発や進行の阻止、膵臓の内分泌・外分泌の機能を補充する治療に分けることができます。
急性増悪が起きたら
   経過中に急激に悪化する急性増悪が起き、強い症状が現れた場合は、急性膵炎と同じ状態になっていると考えられるので、急性膵炎と同様の治療が必要になります。
軽度〜中程度の症状
   急性増悪とまではいかないまでも、軽度〜中程度の症状の場合は、原因、あるいは誘因を極力避けることが必要になります。
 つまり、食事やストレスなどの生活習慣の改善が重要になります。
生活習慣の改善
   生活習慣の改善の具体例としては、節酒・禁酒を守ること。
 脂肪分の多い食事は避け、脂肪量は1日40g以下に抑えること。
 過食は避けること。
 コーヒーを飲みすぎないこと。
 香辛料の使用を制限すること。
 心身の安静を保つこと。
軽症の慢性膵炎
   腹痛が持続する場合は、鎮痛薬、鎮痙薬(ちんけいやく)などを使用します。
 消化酵素薬、膵酵素阻害薬(すいこうそそがいやく)の経口投与も、軽症の患者さんには有効です。
薬物療法
   膵機能の低下による消化吸収障害に対しては、消化酵素薬の大量投与が必要になります。胃酸分泌抑制薬も併用します。
 膵性糖尿病では、コントロールが困難な場合が多く、一般にインスリン注射が必要になります。
特種療法
   慢性膵炎での特種治療としては、膵石に対しては、ESWLと呼ばれる対外衝撃波結石破砕療法(たいがいしょうげきはけっせきはさいりょうほう)、内視鏡治療があります。
 膵管狭窄や膵仮性嚢胞(すいかせいのうほう)に対しては、管を挿入して内容物を吸引するドレナージ治療などがあります。
手術
   治療法の発達によって、慢性膵炎に対する外科的治療は以前に比べて少なくなりました。
 ですが、頑固な疼痛がどうしても改善されない場合や、重篤な感染を合併した場合には、手術を行うことがあります。

慢性膵炎かなと思ったら?
消化器専門医の診察を受ける
  イメージ画像 腹痛や血清アミラーゼの軽度の上昇のみで、安易に慢性膵炎と診断されてしまい、漫然と投薬されてしまう患者さんも多く存在します。
 そうならないためにも、消化器専門医の診察を受け、確実に慢性膵炎なのかどうか、疑いが濃いのか、あるいは消化管などのほかの疾患が考えられるのか、しっかりとした診断を受けることが重要です。
早期発見が難しい病気
   早期の慢性膵炎の診断は困難です。ですが、症状の原因となるような他の疾患が検査によって否定された場合は、早期の慢性膵炎の可能性が考えられます。
 生活習慣の改善を中心とした治療を受けることも必要です。  
生活習慣の改善
   確実に慢性膵炎と診断された場合は、膵炎の進行阻止と、合併症の予防が重要になります。
 やはり治療の基本は生活習慣の改善にあり、他は補助的な治療法であることを理解しましょう。外分泌機能が低下しているため、食べ過ぎ、とくに脂肪分の多いものは食べないようにしましょう。
 原因がアルコールであれば、禁酒が重要です。慢性膵炎の患者さんでは、アルコール依存症になっている場合が多く、飲酒量を控えるのは困難です。
定期的な検査
   慢性膵炎は、直接死に至るような病気ではありません。
 しかし、仕事、家庭での生活の質を示すQOLを著しく低下させてしまうこともありますので、決して油断することはできない病気でもあります。
 慢性膵炎の長期的な経過では、悪性腫瘍による死亡がもっとも多いとされているので、定期的に検査を受けることが必要です。
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