そらいろネット > 家庭の医学 > こころの病気 > 幻聴・幻声・妄想
幻聴、幻声など、正体不明の声が聞こえることは、それほどまれなことではありません。以下の4つの状態が重なってしばらく続くと、しばしば見られる現象です。 不安 孤立 過労 不眠
山や海などで遭難した人の手記を読むと、正体不明の声が聞こえてくる体験が良く出てきます。遭難した人は、不安で孤立しています。そして、疲れきっていても、ぐっすりとは眠れない状態で、4つの条件に当てはまります。 白血病などの病気で無菌室での治療を受けていると、1週間くらいすると今まで心の病気とは無縁の人でも、正体不明の声を聞くことがあります。無菌室の治療でも、4つの条件に当てはまります。
遭難や、無菌室といった特殊な出来事でなくても、日常生活でも幻聴・幻声が聞こえてくる条件が潜んでいます。 「受験、入学、就職、留学、家族からの独立、引越し、人間関係のトラブルや破綻」などの生活の節目に、不安、孤立、過労、不眠の4つの条件が揃いがちになります。すると幻聴や幻声が聞こえることがあります。 幻聴や幻声は精神科の治療を通して消していくことができますが、放置してこじらせてしまうと、統合失調症や双極性障害などの精神病に移行して治りにくくなる場合があります。 家庭の医学:統合失調症(精神分裂病)
何かと忙しくせわしない 日常生活や人間関係が大きく変化する 新しい事や苦手な事に挑戦する必要がある 心配事や失敗のおそれがあり、ある程度の期間それに耐えなくてはいけない 実際に失敗やミスをして、困ったり傷付くことが多い 自分で最終的な責任を背負わざるをえない
19世紀のフランスの画家、シャン=フランソワ・ミレーの絵画です。バルビゾン派の代表的な画家で、大地とともに生きる農民の姿を、崇高な宗教的感情を込めて描いています。代表作は「落穂拾い」、「種まく人」など。 この絵画は「空気の精エアリエルによって導かれるファーディナンド」です。シェークスピアの劇「テンペスト」の一場面を描いた作品です。 幻聴や幻声などの正体不明の声を、空気の精が発している声として表現しています。さらに不思議な声を聞いている人の驚きや戸惑い、疑念などが表現されています。
10世紀〜20世紀のノルウェー出身の画家、エドヴァルド・ムンクの絵画です。ムンクの代表作「叫び」は、ムンクの代名詞的存在となっています。ムンクは幼少期に母親を亡くし、思春期に妹の死を迎えるなど、病気や死と直面せざるをえない環境に育ちました。 全身をよじった人物が強烈な苦悩、恐怖、孤独を表現しています。この絵画はムンクの実体験が元になっているといわれています。 太陽が沈みかかっている夕方、友人と2人でフィヨルド沿いの道を歩いていました。憂鬱な気分に陥っていたムンクは、友人と離れ一人きりとなり、不安におののきました。その時、「自然をつらぬく、けたたましい、終わりのない叫びを聞いた」と書き残しています。
精神科では、正体不明の声が聞こえることを、「幻聴」や「幻声」と読んでいます。まぼろしの声が聞こえる体験のことです。 幻聴の現れ方には、人によって様々な聞こえ方があります。
外から聞こえてくる声 耳元や、頭の中で聞こえる声 喉や首、胸やお腹など、自分の体の中から聞こえてくる声など
学校や会社に行くと聞こえてくる声 家の近所から聞こえてくる声 入浴中やトイレ中に聞こえる声
テレビやラジオの音声と一緒に聞こえる声 人の話し声と一緒に聞こえる声 車の通過音や、換気扇の音などと一緒に聞こえる声
幻聴は他人の声が実際に聞こえるので、それを「他人の話し声」と受け止めるのは自然なことです。しかし、幻聴の元をたどれば、「自分の気持ちや考え」で、「実際の他人の声」とは違います。この区別がとても大切になります。 夢を見ている時に、夢の中の登場人物の声が聞こえるように感じることがありますが、その声は自分の気持ちや考えだったりします。夢と似た現象が、起きている時にも生じているのが幻聴だと考えればわかりやすいかもしれません。
ある人に感心する一方で、心の底では反発心があるなど
あの人は自分の事をこんな風に思っているのではないかなどを想像する
幻聴がいつも聞こえると、うるさくてうっとうしく感じ、物事に集中しにくくなります。幻聴では、悪口、中傷、脅し、命令、考えや行動を先取りするような内容、予言めいた事、荒唐無稽な内容などが聞こえるので、不快感・誤解・思い違い・混乱が生じやすいものです。 さらに、幻聴に対して返事をして独り言を口にしても、周囲からおかしな目で見られる事もあります。
誰もいないのに正体不明の声が聞こえるので、テレパシー、神や霊からのお告げ、超常現象、電波、催眠術などと勘違いして誤解を広げる場合があります。
幻聴から、自分のプライベートな情報が回りに知れ渡り噂になっていると疑念を抱くことを、個人情報漏洩体験といいます。
知らない人たちが自分について話をしている声が聞こえる場合、その声を真に受けると「自分のことが知れ渡って噂になっている」と誤解しがちです。 テレビやラジオの音声と一緒に声が聞こえることもあります。それを真に受けてしまうと、「テレビやラジオで自分のことが放送されてる」とか、「テレビ局が自分のことを調べてる」などの思い違いが生まれ、自分に関する情報が知れ渡っているという誤解につながります。
幻聴から、「自分の気持ちが常に誰かに筒抜けになっているという疑惑」を思考伝播といいます。
幻聴は、そもそも自分の考えがきっかけになっています。 どこかで自分のこと、自分の心の動きに正確に合っている ピタリと合ったタイミングで声が聞こえる どこにいても声が聞こえる 相手と会話できるように感じる 自分しか知らないはずの内容が聞こえてくる これらの幻聴を真に受けると、自分の気持ちが誰か幻聴を発している人(たいてい正体不明で不気味な人)に常に伝わり、筒抜けになっていると感じやすいものです。
自分の気持ちが筒抜けになっていると感じれば、誰でも「なぜ自分の気持ちが筒抜けになっているのだろう?」と考えるのが当然です。すると、、、 隠しマイクで盗聴されたり、組織的に監視されている テレパシーや超能力で、心の中を読まれている 新しい科学機械で、人体実験をされている などと誤って考えてしまいがちになります。 自分の気持ちが他人に伝わり、筒抜けになっていると考えると、不安や恐怖が生まれ、幻聴がもたらす大きな悪影響のひとつとなります。
「自分のプライベートが周りに知れ渡って噂になっている」とか、「自分の気持ちが誰かに伝わっている」と感じて疑心暗鬼になって周囲を見ていると、偶然の出来事が自分と関係あるようにみえてきてしまいます。 それが重なると、偶然の出来事の中に自分への特別な感情を感じて信じ込み、違う見方の可能性をすべて否定してしまいがちになります。 これを「妄想」と呼びます。妄想にはさまざまな現れ方があります。 嫌がらせをされている 噂されている 調べられている 追跡され、尾行されている 盗聴されている ジロジロと見られている あてつけをされている
幻聴では、実際にはありえない内容が聞こえてきて、それを真に受けて信用して妄想を抱いてしまうこともあります。 「不安、孤立、過労、不眠」の4つの条件と、「幻聴」、そして「妄想」の3者には、互いに相手を強め合う悪循環が生じることが多くあります。
幻聴・妄想は精神科で治療をするという本人の意思、家族と精神科スタッフの共同作業を通して消していくことができます。 そこには、幻聴・妄想治療のための4つの柱を守る必要があります。
幻聴や妄想を放置しておくと悪循環が生じてしまい、かえって悪化してしまいます。放っておいても自然に治ることはなく、回復させるためには治療が必要になります。 精神科医、看護婦、心理療法士、作業療法士、保健婦、ケースワーカーなどの医療スタッフは、幻聴や妄想を消していくための専門知識、専門的な情報の提供者です。本人や家族の「不安」を減らして、「孤立」を避けるための相談相手なので、活用すべきです。
悪循環を断ち切り、回復を助けるためには、精神安定剤を飲むことも必要になります。 精神安定剤は、「不安」を減らし、「不眠」を軽減し、心や脳の精神的な「過労」を改善する効果があります。服用することで、悪循環を断ち切り、回復を援助します。
抗精神病薬は、幻聴や妄想などの精神病体験を生み出すきっかけになる「不安、孤立、過労、不眠」の4つの条件に対して以下のように働くと考えられています。
素晴らしい効果を持つ抗精神病薬ですが、完全に治らない状態で服薬をやめると、再発しがちです。抗精神病薬をきちんと服用し、自分の判断で服薬をやめないことが、幻聴や妄想の治療でもっとも大切です。 副作用かもしれない症状があらわれても、それを理由に服薬を中止せず、主治医に相談しましょう。
服薬後、効果があらわれるまでに数週間〜数ヶ月かかることがあります 治療効果には個人差があります 抗精神病薬を服用している期間は、飲酒が制限されます
眠気 立ちくらみ 頭の回転が鈍くなる 喉が渇く 手足が震える じっとしていられなくなる 便秘や、尿が出にくくなる
主治医に相談して薬の量を変える 主治医に相談して薬の種類を変える 主治医に相談して副作用止めの薬を一緒に飲む
最近になって新しく開発された、「非定型抗精神病薬」は、「第二世代抗精神病薬」とも呼ばれ、新しいタイプの薬です。今までの抗精神病薬と比較して、治療効果が高く、副作用が少ないのが特徴です。 日本で使用で生きる非定型抗精神病薬には、以下のものがあります。
第二世代抗精神病薬といっても、魔法の薬ではありません。少ないとはいえ、副作用がありますし、人によってはあまり効果がない場合もあります。
薬物療法に合わせて行っていくことで、薬の効果が増し、治療効果を高めることができます。 幻聴や妄想を消していくためには、まずは現在の生活から「不安、孤立、過労、不眠」を減らすように心がけましょう。焦らずに、無理をせず、養生に努めて、「不眠」や「過労」を避けて、十分な睡眠をとるようにしましょう。 知りたいことや心配事があったら、医師、看護婦、ケースワーカー、作業療法士、臨床心理士、保健婦などに遠慮なく相談しましょう。
幻聴を消していくためには、声が聞こえても「実際の他人の声じゃない」ことを忘れないようにしましょう。 たとえ聞こえても、実際の他人の声ではないのだと受け止めることができれば、「自分のプライベートが知れ渡って噂になっている」とか、「自分の気持ちが誰かに筒抜けになっている」といった不安や、恐怖感が薄らぎます。 そうすれば、黙っていれば自分の気持ちや情報が他人に伝わることはないという安心感が取り戻せます。
声の内容には気にかけず、相手にしすぎないようにしましょう。 声の内容を気にかけたり、ムキになって反論したり言い返したりすると、幻聴の出現頻度が増えたり、内容がエスカレートしがちです。 また、幻聴が止まっているのに、聞き耳を立てたり、話しかけたりすることによって、再び幻聴が生じてしまうことがあります。気になっても、しないようにしましょう。
幻聴への対処法はさまざまあります。実践してみて、自分に合った対処法をいくつか見付けておくとだいぶ楽になります。 頭の中を真っ白にして、頭の働きをちょっと止めてみる 家族や友達と雑談をする カラオケボックスで歌う、ハミングをする 体操、水泳、散歩、ジョギング、サイクリング、ビリーズブートキャンプなどをして体を動かす 入浴やシャワーを浴びる テレビを見る、ラジオを聴く、好きな音楽を聴く 耳栓や、ヘッドホンをする お気に入りの服や靴を身に付けたり、化粧をする 「静かにしてね」とお願いをする 頓服薬を飲んで、一休みする 掃除、庭仕事などをする 食事をする、タバコを吸う、ガムを噛む、飴を舐める 読書をする、日記を書く 喉を手で押さえてみる 背筋を伸ばして、姿勢を正す 初恋の人を思い出す