そらいろネット > 家庭の医学 > こころの病気 > 境界性人格障害・境界性パーソナリティー障害
さまざまな精神病症状 抑うつ、空虚感 些細なことで生じる敵意、恨み 破壊的衝動行動、薬物乱用 一過性の精神病状態 表面的、あるいは極端に依存的で不安定な人間関係
スチューデントアパシー・通勤拒否 リストカット症候群
うつ病 パニック障害 摂食障害 薬物依存症・アルコール依存症 AD/HD(注意欠陥/多動性障害)
人格は、人が生まれ持っている性質・生物学的要因と、環境因子によって形成されます。思春期以降に次第に明らかになってくる人格傾向のうち、本人、あるいは周囲がその人格傾向によって社会生活上、著しい困難をきたしてしまう病態のこと人格障害・パーソナリティー障害と言います。
人格障害とは、英語ではパーソナリティー・ディスオーダー(Personality disorder)の日本語訳です。日本語では、やや差別的な意味合いが歴史的にあり、その表現に偏見をもたれやすくなっています。そこで近年では、「パーソナリティ障害」と呼ばれるようになりました。 人格障害と言っても、欠陥人間や、犯罪者という意味ではありません。 現在の臨床医学では、なくてはならない大切な病気の概念となっています。精神症状ではなく、対人関係などのありかたで定義されます。
歴史的には、精神病とも、神経症とも分類できないものの、正常と比べて、行動や物事の認識のしかたが逸脱した一群の人たちが存在することが知られていました。 古くは、犯罪者の研究から始まり、遺伝的基盤を持った変質者と認識される伝統が19世紀以来のヨーロッパでみられてきました。 ドイツのシュナイダーは、病気としてとらえるよりも、むしろ正常からの逸脱としてこの病態をとらえました。その後、精神医学ではこれらの人たちを類型化して、治療的アプローチを図ろうとしてきました。この類型化には、精神分析学の影響を受けているといわれています。
人格障害は一般の精神疾患にともなって存在することが多く、うつ病や摂食障害などに、しばしば併発します。 DSMW-TRというアメリカ精神医学会の分類では、10種類の人格障害が分類されています。クラスターA群は、統合失調症の周辺領域の病態で、風変りに見える人たちです。クラスターB群は、衝動や情緒の表現の問題を持ち、風変りに見える人たちです。クラスターC群は、対人関係や社会といったものを含めた外界に対して、強い不安や恐怖を感じ、ヒトが本来持っている性質の一部が極端に強調された形式で常に現れる人たちです。 こうした分類は、研究上や治療上の必要性から仮定された概念で、現在の分類や診断基準が正しいかどうかは、さまざまな議論があります。文化、社会的な背景が異なると、妥当性には疑問があります。回避性人格障害は日本人の気質では一般的傾向と言えるため、日本人には当てはまりやすいことが知られています。
精神分析治療の場から生まれてきた概念で、はじめは神経症と精神分裂病のそれぞれの特徴を持ち、そのいずれとも決めかねる病態から、ボーダーライン(境界例)と呼ばれていました。 ですが次第に概念が明確となり、1980年ごろから、一般的な診断として普及してきた障害です。
患者さんの特徴として、女性に多くみられます。一見すると魅力的で情熱的な印象を受けることも少なくありません。 一定の感情を保持することが難しく、怒りや不安に対する耐性が低く、対人関係は非常に不安定です。自分の安定を得るために、自殺や自傷をほのめかすなど、周囲を不安にさせて操るような言動が多くなります。そのため、家族、友人、恋人などは、いつも患者さんを腫れ物を扱わないといけないような気持ちにさせられてしまいます。
患者さん本人の症状としては、慢性的な抑うつ感、空虚感、衝動性、情緒不安定、対人関係の不安定さなどがあげられます。
他の精神疾患を患っていることが多くみられます。 特徴的な精神疾患としては、うつ病、パニック障害、摂食障害、薬物依存症、アルコール依存症、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)などが認められます。
現在でははっきりとした原因は、まだわかっていません。 遺伝的要因(生理学的な脳の脆弱性)と、環境的要因(身体的虐待、性的虐待、過干渉、機能不全家庭など)の相互作用によってあらわれてくると推定されています。
境界性人格障害の治療には、精神分析的精神療法、認知行動療法、薬物療法が用いられます。 SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬が効果があるとされる報告や、認知行動療法を修正した、弁証法的行動療法(DBT)が、自殺や衝動行為の制御に有効性が高いとする報告があります。
境界性人格障害の治療には、数年、あるいはそれ以上の長期間を必要とします。 現在では、外来通院、デイケアなどの中間施設の利用、短期の入院が治療の主流となっています。長期の入院治療は、重篤な症状をのぞき、行われなくなってきています。
症状に自分が該当する場合は、早めに信頼できる治療者を見つけ、治療を継続していくことが大切となります。 一般的に、30歳を過ぎると、社会適応は改善される場合が少なくありません。ですので、30歳まで自殺を予防し、生存を確保することが、治療の上で重要とされています。