そらいろネット > 家庭の医学 > こころの病気 > 自閉症・自閉性障害
脳の発達・成熟が傷害されることによって、心を通わせることが不自由になる神経発達の病気です。 3歳までに発症し、子供の0.1%〜0.2%にみられる病気です。
自閉症の子供は、あたかも自分の世界の中で生きているかのように見えます。他人に興味を示すことが少なく、社会性に乏しい傾向があります。また、日常生活の決まりにこだわり、奇妙な行動を繰り返します。 コミュニケーションが苦手で、視線を合わすことを避け、他人に愛着を示しません。
自閉症という概念は、1943年にレオ・カナーによって「早期幼児自閉症」として報告されました。その後、認知・感覚機能に関する研究とともに、対人関係のあり方に関する研究が進んだことによって、自閉症の理解は飛躍的に進歩してきました。 「早期幼児自閉症」は簡略化され、「自閉症」や「自閉性障害」と呼ばれるようになりました。さらに、「高機能自閉症」、「低機能自閉症」という使い方も始まっています。
現在では、すべてをまとめて「自閉症スペクトラム」、または「自閉症連続体」と呼ばれています。 一般的にIQ70以下を「低機能自閉症」、「カナー症候群」と呼び、IQ70以上を「高機能自閉症」、「アスペルガー症候群」と呼びます。
はっきりとした原因はわかっていません。 現在では、遺伝的な要因によって脳の構造や機能に異常が生じると考えられています。環境要因も発症に関係しますが、親の育て方が自閉症の発症の直接的な原因ではありません。
身体の病気では、結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)、単純ヘルペスウイルス脳炎、先天性風疹感染症、フェニルケトン尿症、染色体異常(脆弱X症候群)などに、自閉症が合併したという報告があります。
自閉症の症状には、大きく分けて以下の3つの特徴があります。
他人と視線を合わせない、抱かれることを嫌がる、他の子供と一緒に遊ばないなど。
耳が聞こえないかのように振る舞う、言葉の発達が遅い、言葉を使って話しかけようとしないなど。
自閉症の子供は、顔の表情や、感情を読み取ることが困難です。放し方や、口調のニュアンスも伝わりません。 集団で動くことは苦手で、一人遊びを好みます。 学習に抵抗を示す一方で、数学、音楽、芸術、記憶に非凡な才能をみせます。
大きなくくりから考えると、自閉症は広汎性発達障害の一種です。注意欠陥・多動性障害(AD/HD)や、学習障害とも近縁の病気です。高機能自閉症では、AD/HDや学習障害のある人もいます。
低機能自閉症では、IQ70以下が一般的なので、多くの場合は知的障害も併せ持っています。 回転するものに興味を持つ人が多く、手を引っ張ってそこに連れて行こうとする「クレーン現象」を示すことが多くなります。 高い記憶力を持ち、カレンダーを見ることなく曜日を的中させるなど、「サバン症候群」と呼ばれる能力を持つ人もいます。
自閉症を「高機能自閉症」から「低機能自閉症」までの広いスペクトラムでとらえようとすると、「自閉症スペクトラム」の中の「高機能自閉症」のひとつに「アスペルガー症候群」が含まれます。 アスペルガーの死後、1981年にローナ・ウイングがアスペルガーの論文を再発見して広げた概念で、200人に1人いるという報告もあります。
アスペルガー症候群では、対人関係に問題を持つことが多くなります。 「低機能自閉症」では周囲に無関心であるようにみえますが、アスペルガー症候群では他人と交わろうと努力をします。しかし、それとなく決まっている社会生活上のルールを身に付けることが苦手で、ちょっとした仕草や表情の変化を読み取ることがうまくできません。 このため、コミュニケーションがうまくいかないことがあり、言葉を交わすことは問題なくても、仕草の読み取りが悪いので相手の反応に気付かず、一方的に話してしまうことも多いです。
話の細部にこだわり、含みを持たせた言い回しを理解する力が弱いため、比喩や冗談が通じません。 また、相手の気持ちを汲み取ることが苦手です。 数字などや、物事に関する記憶はいいのですが、抽象的な思考が苦手なので、想像力の欠如がみられます。
物事の仕組みに対して、強い関心を持ちます。理論的なことを理解する力が高く、科学、物理などに関して強い関心を持ちます。そのため、コンピューターなどの習熟が早いです。 几帳面で、日々の行動も予定通りを好み、予定が変更になるときには、混乱して、時にはパニックを起こすこともあります。
まず、言語や社会性の発達に遅れがあるかどうかを判断します。 さらに、出生から現在までの医学的情報、診察所見、血液検査、頭部画像検査、心理発達検査などによって、自閉症かどうか、合併する身体的な病気はないか、総合的に診断します。
自閉症の子供の基本的な行動の特徴と、苦手なところを理解し、年齢、発達水準に合わせた教育、訓練、指導が必要です。 刺激の少ない、落ち着いた治療環境で、個別指導と集団指導を組み合わせて、生活体験を広げていくようにします。
年齢が低い間は、運動、社会性、言語の訓練、指導を行い、日常生活で自立でき、社会生活に適応できることを目指します。 年長になるにつれて、心理面への対応を組み入れていきます。
パニックと呼ばれる興奮状態に対しては、薬物療法を行うこともあります。
自閉症の子供は、愛情を通わせたり、示したりすることが苦手です。しかし、他の子供たちと同じように、愛されることを求めています。 早期から継続的に治療していくことにより、自閉症の子供の発達を伸ばすことができます。 小児科医、地域の保健機関、療育施設などに相談して、適切な診断と指導を受けることができます。
2001年5月にWHOが採択した、国際生活機能分類(ICF)では、障害を疾病面からとらえるだけでなく、生活面からとらえるものであり、こうした障害理解に立つ自閉症理解はさらに発展を遂げ、自閉症への教育的、あるいは福祉的関わりに大きな影響を与えています。 これまでは、教育的、あるいは福祉的な働きかけとして行動療法が行われてきましたが、自閉症の心理的理解を踏まえたteachの手法を取り入れるところも多く、自閉症のノーマライゼーションはさらに進むものと考えられています。