そらいろネット > 家庭の医学 > こころの病気 > リストカット症候群・手首自傷症候群
スチューデントアパシー(学生無気力症)が青年男子に多いのに対して、リストカットは10代〜20代、未婚の女性に多く見られます。調査によると、男女比は2対8くらいの割合で女性に多いです。
おもに、家族、主治医、看護婦との対立、些細な失意をきっかけにして、自分の手首を傷つけます。本人は死ぬつもりだったと言いますが、それほど深い傷ではありませんし、実際に死にいたる人はまれです。
リストカット症候群(手首自傷症候群)は正式な医学的病名ではありません。ボーダーライン人格障害(境界性人格障害・境界性パーソナリティ障害)、あるいは、摂食障害の範囲に入れるか、近縁の関係の病気として位置付けられています。 類似の自傷行為として統合失調症の末期症状によるものなどがありますが、これは幻覚や妄想によって引き起こされるもので、自傷内容としては非常に凄惨で残酷なものが多く見られます。 リストカットのことを、略してリスカと呼んだり、リストカットを行う者のことを、リストカッターと呼んだりします。手首(wrist)と切る(cut)を合わせて作られた和製英語です。腕を切るアームカット(アムカ)、首を切るネックカット(ネクカ)、足を切るレッグカット(レグカ)と呼んだりもします。
自己破壊行動の一つと考えられていますが、自殺を本当に決心した上での行動とは異なります。 具体的に何が引き金となりリストカットを行うかは、本人にも大抵の場合は不明で『強い衝動があった』などといったあいまいな説明になることが多いです。 軽い意識変容をおこして、状況を変えるための行動、自己の再確認、ストレス解消のように考えられています。
リストカットの場合、とくに母子関係の間に原因が認められます。 成長と共に女の子は、母親に接近と反発という矛盾に富む態度をとるようになります。仲間との交友関係が十分に発達すると母親との関係は悪化しませんが、仲間が作れず、母親に愛着せざるをえない女の子もいます。そのため、母親に近付き支配しようとしますが、別離・自立の葛藤からおこる行動ですから母親に対する愛着を挫折してしまいます。こうしたとき、両親の対応が適切でないと問題行動に走り、リストカットにいたります。 リストカットは、拒否する母親と、女の子自身の「見捨てられた感」をあらわしています。
自傷部位のほとんどが手首の内側の表皮で、浅い切傷、または開放創です。開放創の場合は、縫合する必要があります。まれに、腕、足、顔、腹部などを切ることもあります。
手首を傷つけるときに用いられる道具は、ほとんどがカミソリかカッターです。ハサミを用いる場合もあります。そして、この行動は、一回だけではなく、数回、十数回と、繰り返す人が多いです。 周囲の目を引こうとして行ったり、攻撃衝動を外に向けることができず自分に向け「母親に愛されない自分の存在が許せない」と思ったり、「自分という存在はこの世界に必要ないのかも知れない」といった考えを否定するために痛みや流れる血などを見て自己の生命を再確認し安心感を得るために行われます。 中にはインターネットに触発されてファッション感覚で真似をする人もいます。
リストカット以外の症状としては、憂鬱感、食欲不振、器物破損、短時間の意識喪失、神経症、引き篭もり、性的無軌道、薬物依存、うつ病、盗みなどがあげられます。入院した場合は、規則の無視などがみられます。
リストカットにおいては、行為自体を責めることは絶対にしてはいけません。また、無理矢理やめさせようとするのもしてはいけません。 このような周囲の行動は、本人に対し過度のストレスとなり、更なるリストカットに走らせる結果になる場合が多いです。さらには、こころの拠り所を失い絶望し、自殺などにいたるケースもあります。 本人の中で自傷行為は自分の精神を安定させる有効な方法の一つとなっていますので、それに代わるものを考える方がよいです。
「痛いでしょ?そうしたい気持ちは分からないわけじゃないよ。でも、リストカットをして最後に困るのは誰?」、「辛いだろうけど、そんなことしなくても私はそばにいるよ、だからゆっくり治していこうよ」など共感を交えつつ注意喚起して、行為を減らしていくのが良い方法です。
他人との一体感を得るために別の心配してくれる人を探し出して、その人に分かるようにしてリストカットを行う傾向があります。その人が驚いて大騒ぎして、本気で心配してくれればいいのです。本人にとって、心配してくれる人というのは自分のことを分かってくれる、非常にありがたい人なのです。 つまり「心配されること」=「理解されること」と言う図式になっているのです。 リストカットを何回も繰り返していると、やがて周囲の人はその演技のように見えてきてしまい、『またか』というように、だんだんと関心を持たなくなっていきます。もし誰も心配してくれる人がいなくなったとしたら、本人は絶望してしまい、本当に自殺してしまうことがありますので注意が必要です。
赤いボールペン、または赤いマーカーを用意します。このペンを使って、手首に赤く線を書きます。ボールペンを使用すれば手首に痛みを感じることができ、マーカーを使用すれば、手首に流れる血を感じることができ、満足感がえられる場合があります。 また、冷蔵庫から氷を一個取り出して、掌の中で力一杯握りしめます。その冷たさからくる痛みが、自虐的な攻撃衝動を中和してくれることもあります。 ただし、本人が冷静な場合に限られます。強い衝動にかられてしまっている場合などは、記憶や意識がなくなってしまっている場合もありますので、そのような場合、有効ではありません。
本人もひどく悩んでいるのに、悩みを解決する道を選択すること自体に抵抗し、葛藤を繰り返します。両親の理解が乏しいとか、干渉しすぎるといって反発します。 権威を認めることにも抵抗しますから、精神科医を訪ねることを周囲が勧めても受け入れられませんし、自ら相談に行くこともほとんどありません。 本人は自己形成をめぐって混乱しているため、『自分から動く』という積極的行動をおこして、はじめて解決や改善の糸口がつかめるのです。
まずは、正しい情報を伝える必要があります。 本人に勧めても受診しない場合は、両親が精神科医に行って相談することが良いでしょう。その際、精神科医なら誰でも良いというわけではなく、思春期や青年期の障害を手掛け、精神療法の心得のある精神科医を探して相談した方が良いです。
本人が意を決して精神科医を訪ねたら、症状や、行動ばかりでなく、その奥にある自己評価、自尊心の傷付き、不安、別離不安、存在の不安、罪悪感などを明らかになってくるでしょう。 しかし、初診の先生がその後の治療を継続して担当してくれるとは限りません。こうした青年が近年増加傾向にあり、どの精神科医も手一杯の患者さんを抱えていることが多いからです。その場合、最も適切と考えられる精神科医や心理士を紹介してくれます。 ただし、自己形成に関わる治療ですので、長期間にわたって治療が必要です。
薬の使用は、抑うつ感、強迫症状、衝動行為をおこす興奮をやわらげるのに効果がある場合に向精神薬などを用いられます。薬だけで治るものではありません。 安易に入院させたりすると、それが母親や周囲の人との物理的な分離を招くことになりますので、愛情対象を取り戻そうとして病院内でリストカットが頻発することがあります。
精神的に落ち着けば治まる場合が多く、年齢と共に自傷行為をする人口は減っていきます。これは、年齢に応じた経験により自己を確立する術を手に入れたからだと考えられます。
以前は、神経症と、精神分裂病のそれぞれの特徴を持ち、そのいずれとも決めかねる病態をボーダーライン(境界例)と呼んでいました。その後の研究で、それらは神経症や精神分裂病といった病気ではなく、パーソナリティー、あるいはその発達の障害、つまり性格の病理と考えられるようになりました。 しかし、ボーダーライン(境界性)という用語が有名であったため、その言葉が現在でも用いられています。 2003年8月から「境界性人格障害」から「境界性パーソナリティ障害」と呼び名が変わりましたが、境界性人格障害の方が一般的です。
さまざまな精神病症状 抑うつ感 空虚感 些細なことで生じる敵意や恨み 破壊的衝動行為 薬物乱用 一過性の精神病状態 表面的、あるいは逆に極端に依存的で不安定な人間関係
小説を読んだことのある人はお気付きかと思いますが、太宰治は境界性人格障害であったと考えられています。 ドアーズのロックシンガー、ジム・モリソンも境界性人格障害であったかもしれません。他にも、ダイアナ妃、マリリン・モンロー、尾崎豊なども境界性人格障害だったのかもしれません。 大人の2%が境界性人格障害といわれていて、めずらしい病気ではありません。