そらいろネット > 家庭の医学 > 感染症による病気 > ライム病
ライム病は、ネズミ、シカ、野鳥などを保菌動物として、マダニが媒介するスピロヘータの一種、ボレリアの感染に起因する細菌感染症です。全身性の多様な症状があらわれます。 野生動物では感染しても発症しませんが、ヒト、犬、馬、牛では症状があらわれます。
ライム病の病名の語源は、アメリカコネチカット州のライム(Lyme)で発見されたことによります。
ライム病の病原体を保菌しているマダニに刺されることによって感染します。 ヒトからヒトへの感染、動物からの直接感染はありません。 病原体を媒介するマダニは、日本の本州中部以北に分布するシュルツェマダニ、アメリカではスカプラリスマダニ、ヨーロッパではリシヌスマダニなどが知られています。 世界では、ライム病ボレリアとして、3種類が知られています。日本では、ボレリア・ガリニがおもな病原体となっています。
地球規模で進む気温と降水量の変化によって世界各地の生態系が変容すると、ライム病以外にも、黄熱病、ペスト、鳥インフルエンザなど、さまざまな病気が大流行する恐れがあると懸念されています。 他にも、バベシア症、コレラ、エボラ出血熱、腸内寄生虫・外部寄生虫、赤潮、リフトバレー熱、アフリカ睡眠病、結核などが流行する恐れがあります。 地球温暖化が進むと、マダニやカ(蚊)といった感染症を媒介する生物が、それまで生息していなかった地域にまで侵入するようになると考えられています。そのような地域では、爆発的に感染が広がる可能性があります。
海外、特にアメリカやヨーロッパでは、ライム病は慢性の全身性の疾患として知られています。欧米では現在でも年間数万人のライム病患者が発生し、さらにその報告数も年々増加していることから、社会的に重大な問題となっています。 渡航先で感染した場合、症状の進行にともなって、遊走性紅斑(ゆうそうせいこうはん)、萎縮性肢端皮膚炎(いしゅくせいしたんひふえん)などの皮膚症状があらわれます。また、髄膜炎(ずいまくえん)、神経根炎(しんけいこんえん)などの神経症状、関節炎などがあらわれる可能性もあります。
一般的には、マダニの刺咬部(しこうぶ)を中心とする遠心性の紅斑(遊走性紅斑)が数日〜数週間後にあらわれることがあります。 これと同時に、筋肉痛、関節痛、頭痛、悪寒(おかん)など、風邪のような症状がみられることもあります。
全身に病原体が運ばれることによって、症状が現われる期間です。 遊走性紅斑に加えて、神経症状、心疾患、眼症状、軽度の関節炎がみられることがあります。
感染成立から数ヶ月〜数年後です。 播種期の症状に加えて、重い慢性関節炎、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性脳脊髄炎がみられるようになります。 国内感染の場合では、遊走性紅斑、顔面神経麻痺、神経根炎、軽度関節炎などの症状があらわれますが、一般的には重症化しない傾向があります。
ライム病の原因となる病原体ボレリアは細菌の一種なので、抗生剤による治療が効果的です。 使用する抗生剤の種類は、神経症状の有無によって異なってきます。
マダニの刺咬後の遊走性紅斑には、ドキシサイクリン(ビブラマイシン)、髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソン(ロセフィン)が第一選択薬として使用されます。 服薬期間は、2週間〜4週間になります。薬が効かなくなる薬剤耐性菌の報告は、現在のところありません。 マダニの刺咬によるエーリキアの共感染が疑われる場合にも、ドキシサイクリンが有効とされています。
マダニに刺されたいと思っている人はいないとは思いますが、ライム病の感染予防にはやはり、野山でマダニに刺されないことがもっとも重要になります。 マダニの活動期である春〜初夏と、秋に野山に出かける時は、以下のような注意が必要です。 むやみに藪の中などに分け入らないこと マダニの衣服への付着が確認できる白っぽい服装をすること 衣服のすそは、靴下の中に入れること 虫除けなどを使い、マダニを体に近寄らせないこと 帽子の着用
もし万が一、マダニに刺されてしまった場合、自分でマダニを引きはがそうとはせず、病院の皮膚科を受診しましょう。外科的切除を受けるようにしてください。 無理矢理に虫体を剥ぎ取ることで、感染のリスクが高まる危険性があるためです。