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脳血管障害・脳卒中


脳血管障害・脳卒中ってどんな病気?

一般的には脳卒中

 

イメージ画像 一般的に脳卒中と呼ばれますが、医学用語ではありません。
 医学用語では、正確には脳血管障害、あるいは脳血管疾患と言います。
 脳卒中の『卒』は突然倒れる卒倒の『卒』です。『中』は毒にあたる中毒のことで、あたるという意味の『中』です。
 つまり、脳の病気で、突然何かにあたったように倒れることを意味した言葉です。

古くから知られている病気

 

 脳卒中は中国から伝えられた言葉です。
 760年の日本の書物には、すでに記されている病気で、国内でも長い歴史を持ち、医学が発展する前から、広く知られていた病気です。
 上杉謙信、池田輝政、葛飾北斎、福沢諭吉などが、脳卒中で亡くなったと考えられています。

患者さんは増加中

 

 脳血管障害は、日本の国民病のひとつです。
 脳血管障害による死亡者数は、年々、減少傾向にあります。
 これは、脳出血による死亡者数が減少しているためで、脳梗塞くも膜下出血による死亡者数は、あまり減少していません。
 死亡率は下がっていますが、発症率は下がっていないので、病院にかかっている患者さんは、増加傾向にあります。

患者さんの割合

 

 日本国内における調査で、入院中、あるいは外来を訪れた148万人の脳血管障害の患者さんでは、約75%が脳梗塞、15%〜20%が脳出血、5%〜10%がくも膜下出血でした。
 国内では、脳血管障害の患者さんの3/4は、脳梗塞の症状に悩まされていることが判明しています。

高齢者に多い心原性脳梗塞

 

 脳血管障害は、一般的には高齢者の病気と考えられています。発症した人の平均年齢は、71歳です。
 ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞では年齢による差異は少ないものの、心原性脳梗塞は65歳以上では、65歳未満の約2倍になっています。75歳以上の後期高齢者では、65歳未満の3.2倍にもなります。
 心房細動と呼ばれる不整脈が、加齢とともに、顕著に増加するのが原因と考えられています。

高齢者に少ない脳出血

 

 高血圧性脳出血は、65歳以上では、65歳未満の約半分です。くも膜下出血は、65歳以上では、65歳未満の1/3です。
 脳出血では、高齢者の方が少ない傾向がみられます。
 頻度は少ないものの、高齢者になると脳血管にアミロイドと呼ばれる異常物質が貯まり、血管が脆くなって破壊されるアミロイド血管症による脳出血が増加します。
 血液をサラサラにする薬には、注意が必要です。


脳血管障害・脳卒中の症状は?

脳梗塞・脳出血・くも膜下出血

 

イメージ画像 脳血管障害の代表的なものは、脳梗塞脳出血くも膜下出血の3つになります。
 脳と心臓を結ぶ血管のどこかが破れたり、詰まったりすると、脳そのものの脳実質が障害され、手足の麻痺、感覚障害、言語障害、失語症などのほか、意識障害や呼吸困難のため、生命に危険を及ぼすさまざまな症状が現れます。

脳血管障害の分類

 
無症候性の脳血管障害
局所障害型の脳血管障害 一過性脳虚血発作
  脳卒中 脳出血    
      くも膜下出血    
      頭蓋内出血(動静脈奇形)    
      脳梗塞 アテローム血栓性梗塞
          心原性脳塞栓症
          ラクナ梗塞
脳血管性痴呆
高血圧性脳症

脳梗塞

 

 脳の血管が、動脈硬化、他の部位から流されてきた栓子(せんし)によって塞がってしまうと、血液の流れが止まってしまいます。
 その結果、血管から先の脳組織に血液が来なくなります。そのため、酸素、ブドウ糖などの栄養分が遮断され、脳組織が死んでしまい、脳梗塞になります。

脳出血・くも膜下出血

 

 脳の深部の細い血管に、高血圧や加齢が原因で、小さなコブがたくさんできます。急に血圧が上昇すると、コブが破裂し、脳の中に血腫(けっしゅ)ができ、脳出血になります。
 血管が破れても、血管が収縮し、血液が固まるので、出血は止まります。あふれ出た血液が固まって血腫になり、周囲の脳組織を破壊したり、圧迫するため、さまざまな神経症状が現れます。
 脳の表面の太い血管に、動脈瘤ができて破裂すると、脳を包む硬膜、くも膜、軟膜のうち、くも膜と軟膜の間のくも膜下に出血が起こると、くも膜下出血になります。

前兆症状

 

 脳動脈の内腔が血栓によって詰まり、脳血管障害の症状が現れても、24時間以内に自然に症状が消えてしまう一過性脳虚血発作は、脳梗塞の前兆として、もっとも重要な症状です。多くの場合、20分以内に症状が消えてしまいます。
 脳の動脈硬化が強く、高血圧の治療を受けている人で、血圧が下がり過ぎた時、脳循環不全と呼ばれる同様の症状がみられることがあります。


脳血管障害・脳卒中の局所症状

他の臓器とは大きく異なる働き

 

イメージ画像 脳は部位によって、受け持っている機能が異なります。約1400gあり、同じくらいの重さを持つ臓器、肝臓とは大きく異なります。
 脳には、2本の内頸動脈と、2本の椎骨動脈を通して、心臓から血液が送られています。さらにいくつにも枝分かれした細い血管によって、脳全体に酸素やブドウ糖などの栄養分が供給されています。

脳は多くの酸素と栄養が必要

 

 脳は、他の臓器よりも、たくさんの酸素と栄養分が必要とされています。そのため、血液の流れが少しでも滞ってしまう状態には、とても弱いわけです。
 脳血流が低下したり、脳の中に出血が起こって組織が壊れたり、血の塊によって周囲の組織まで圧迫されたりすると、それらの影響を受けて、機能が損なわれてしまいます。

部位によって異なる障害

 

 脳は部位によって、機能が異なります。脳梗塞や脳出血が起こると、その部位の機能に応じた障害が現れます。
 左脳にある言語中枢が侵されると、失語になり、言葉が出なくなります。中央部分にある運動に関わる部位が侵されると、反対側の手足や、片麻痺と呼ばれる反対側の顔面の麻痺が起こります。右脳の後部に脳梗塞ができると、左右の眼の左半分だけが見えなくなる同名性半盲(どうめいせいはんもう)が現れます。
 脳の特定の部位の障害を想定される症状は、脳の局所症状、あるいは巣症状(そうしょうじょう)と言います。


脳血管障害・脳卒中の原因は?

高血圧と加齢

 

イメージ画像 最大の原因は、高血圧と加齢です。
 その他にも多くの原因が判明しており、それらは危険因子と呼ばれています。
 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血では、危険因子は多少、異なります。

脳出血とくも膜下出血

 

 脳出血では、血液が固まりにくい出血性素因、動脈硬化などが、代表的な危険因子となっています。
 くも膜下出血では、動脈瘤の存在、高血圧が、もっとも強い危険因子となっています。

脳梗塞

 

 もっとも患者さんの数が多い脳梗塞では、原因は多様です。
 高血圧と加齢はもちろんですが、糖尿病、心臓病、脂質異常症、肥満喫煙、多量飲酒、ストレス、脱水、炎症、血液が固まりやすい血液凝固系異常、遺伝、抗リン脂質抗体症候群、高インスリン血症、抗ホモシスティン血症などが原因として考えられます。


脳血管障害・脳卒中の診断は?

危険因子の検査

 

イメージ画像 危険因子の多くは、簡単な検査で調べることができます。
 健康診断、人間ドックなどで、危険因子が見付かったら、早めに生活習慣の改善、治療をすることで、脳血管障害を予防することができます。
 加齢や遺伝を治療することは不可能でも、危険因子にたいする治療を行うことで、脳血管障害の予防に繋がります。

隠れ脳梗塞

 

 脳ドックなどで行うMRI検査では、無症状の脳梗塞が、偶然に見付かることがあります。隠れ脳梗塞や、無症候性脳梗塞と呼ばれています。
 特に高齢者では、脳に白い斑点のようなものが見えたり、小さな隠れ脳梗塞が見付かることが良くあります。
 隠れ脳梗塞が見付かった人は、将来、本当に脳梗塞になる可能性が高い傾向があります。
 高血圧や、糖尿病など、原因疾患を治療することが大切で、特に太い血管が細くなっていなければ、血液をサラサラにする薬などを服用する必要はありません。

動脈瘤が発見されることも

 

 検査では、破裂する前の動脈瘤が見付かることもあります。
 動脈瘤が発見された場合、早急に専門医の診察を受けるようにしてください。現在では、さまざまな予防法があります。
 受診は、神経内科、脳外科、脳卒中専門医などになります。

問診

 

 問診では、以下の項目を聞くことで、脳血管障害の種類、程度まで、おおよその見当をつけることができます。

@ どんな状況で発作が起きたか

A

・顔や手足の麻痺・しびれ・感覚のにぶさなどの感覚障害
・ろれつが回らなかったり、言葉が出ないと言った言語障害
・呼び掛けても反応が悪いと言った意識障害
B 頭痛、吐き気、嘔吐、めまいなどをともなうか
C その後、症状がどのように変化したか
D 高血圧、糖尿病、心臓病など、脳血管障害の基礎となる危険因子を持っているか

 意識障害、言語障害などにより、本人が医師に症状を伝えられない場合も多くあります。発作を起こした時に近くにいた家族、倒れているのを発見した人など、状況を良く知っている人が付き添い、医師に報告するのが最良です。
 病院では、入院手続きに追われたり、医師は検査や手当てにつきっきりになるため、口頭で伝えられないこともあります。症状の経過を簡潔なメモにして、医師に渡すと良いでしょう。

画像検査

 

 脳血管障害が疑われた場合、画像検査を行います。
 CT検査で、脳の中を輪切りにした断層撮影を行い、脳血管障害の種類、脳の病変の部位や程度を診断します。脳出血なら発症直後、脳梗塞なら発症後半日〜数日後には、病変を見ることができます。
 CT検査では、短時間で撮影可能で、欠かすことのできない検査ですが、小さな病巣、中脳・橋・延髄の脳幹、小脳の病変はわかりにくいので、MRI検査を行い、CT検査でわからなかった部位の診断をします。MRI検査は、撮影方法を変更し、脳血管を画像にするMRAができるので、太い血管の閉塞や脳動脈瘤を診断することができます。

その他、多くの検査

 

 全身状態を調べるために、尿検査、血液検査、胸部エックス線検査、腹部エックス線検査、心電図検査など、一般的な検査も同時に行います。
 必要に応じて、脳血管造影、SPECT、病型によっては心エコーなども行います。


脳血管障害・脳卒中の治療法は?

基本は薬物療法

 

イメージ画像 症状が軽いと思っても、放置せずに、すぐに治療を受けることが重要です。医師から入院を指示されたら、従うようにしてください。入院すれば、発病初期に大切な安静を正しく守ることができ、症状が急変しても適切な治療が受けられます。手術が必要な場合、安定期に入ってから手足の麻痺や言語障害などの後遺症に対するリハビリなども受けられます。
 発症後、症状が不安定な急性期、それ以上は進行しなくなる安定期に分類できます。
 手術が必要な脳動脈破裂によるくも膜下出血を除き、ほとんどの場合、症状に応じた内科的な薬物療法がメインとなります。

脳出血の治療

 

 高血圧による脳出血は、大きな小脳出血、脳圧が高く脳室が大きくなっている閉塞性水頭症などを除き、内科的治療が原則となります。
 重症の場合、手術を行っても、寝たきりや、植物状態になってしまうことが多いです。救命を目的とする以外は、手術は行いません。
 細い針を使って血腫を吸引する血腫吸引術があります。内科的治療と血腫吸引術で、どちらが効果的か、まだ結論は出ていません。

脳梗塞の治療

 

 脳梗塞でも、ほとんどが内科的治療を行います。内頸、中大脳、脳底動脈のような太い脳血管に血栓が詰まっても、6時間以内なら、カテーテルを血管内に挿入し、詰まった血栓を薬で溶かす治療が行われます。発症から3時間以内なら、血栓溶解薬t-PAを静脈注射します。
 内頸動脈に70%以上の狭窄があれば、細くなっている内頸動脈の傷付いた内膜を切り取る頸動脈内膜摘除術をすることがあります。
 治療は早ければ早いほど、効果が期待できます。病院の設備、専門医の人数、受け入れ態勢、時間的制約などがあるため、どの病院でも最適な治療が受けられるわけではありません。

 

急性期の治療

   

 脳血管障害を起こしてから2週間以内は、急性期と呼ばれます。
 症状が安定せず、すぐに入院し、治療を開始することが重要です。全身症状を改善させるための全身管理と、脳の病変を改善させる薬物療法が中心になります。

   

全身管理

     

 十分に食事がとれないため、脱水状態になりやすくなります。点滴で水分と栄養を補給し、必要な薬剤も同時に注入します。傾眠や昏睡で意識状態が悪かったり、嚥下障害などで飲食物がとれない場合、チューブを鼻腔から胃に通して、栄養(経鼻経管栄養物)や薬剤を注入します。
 胃の圧に押されて、内容物が食堂に逆流し、気管に入って窒息したり、肺炎を起こす可能性があります。胃の中の圧を下げるためにも、チューブは胃の中に留置しておきます。
 呼吸状態が悪く、体内が酸素不足になっている場合、酸素マスクや、鼻腔内にチューブを入れて、体内に酸素を送り込みます。酸素不足がひどい場合、チューブを口や鼻腔から気管に入れ、空気の通り道を確保し、人工呼吸器を使用します。
 尿失禁がある場合、尿道から膀胱までカテーテルを挿入し、尿を体外に排出させる導尿を行い、尿量や尿の状態を検査します。導尿を続けていると細菌感染を起こしやすいので、陰部をこまめに拭くなどして、常に清潔を保ちます。意識がはっきりしてきたら、早めに自力で排尿できるように膀胱訓練を開始し、カテーテルを抜きます。

   

薬物療法

     

 急性期には程度の差はあっても脳がむくむ脳浮腫で、脳圧が高くなります。脳圧降下薬・浸透圧利尿薬を使用します。意識状態が悪い、頭痛や嘔吐が続く、CTで脳圧が高いことがわかった場合、すぐに脳圧降下薬を使います。
 脳血栓で症状が進行してくる場合、血栓を溶かす血栓溶解薬、血液を固まりにくくして血栓ができるのを予防する抗凝固薬、血小板凝集抑制薬、抗トロンビン薬などを使います。
 脳の血流量は、通常ならば血圧に左右されることなく、一定の範囲内で必要量が保たれる自動調節能があります。脳血管障害で脳が障害されると、自動調節能が破壊され、血圧が上がり、脳の血流を保とうと生理的反応が起こります。血圧を正常値まで下げると、脳へ流れる血流量が減少するので、急性期には合併症の治療のために血圧を下げなければいけない場合を除き、降圧薬は使いません。血圧が異常に高いと、脳浮腫のため血流量が減少するので、一時的に降圧薬を使います。
 ストレスで胃・十二指腸潰瘍が発生することがあるので、防止するため抗潰瘍薬を使います。
 大声を出して暴れたり、起き上ってベッドから落ちたり転倒する危険があれば、身体を抑制するため鎮静薬を使います。不安感が強かったり、不眠がある場合、精神安定薬や睡眠薬を使い、ストレスを軽減し安静を保ちます。
 痙攣が起きていたり、起きる可能性がある場合、抗けいれん薬を使用します。薬を服用できなければ、点滴静注します。

 

慢性期の治療

   

 発症から2週間以上経過すれば、症状は安定します。再発や合併症がなく、発症後4週間以上経過すれば、症状が悪化しない慢性期に移行します。
 慢性期には、症状に応じた薬剤の使用と、脳梗塞を起こした原因となる病気の治療が中心になります。

   

薬物療法

     

 再発を予防するため、必要に応じて血小板凝集抑制薬、凝固薬を使います。脳梗塞で血管が詰まった部位、脳出血で血腫ができた部位、その周辺は、血流量が減少しているため、血流量を増加させる脳循環改善薬を使います。
 これらの薬は、後遺症で起こる頭痛、頭重感、めまい、しびれ、意欲低下、抑うつ状態なども、改善する効果があります。

   

原因疾患の治療

     

 高血圧、糖尿病、心臓病、脂質異常症、多血症など、原因となった病気の治療をします。再発を予防するために、大切な治療です。
 脳動脈瘤、脳動静脈奇形などの場合、治療には手術が必要になります。
 タバコを吸う人は、禁煙をします。

後遺症の治療

 

 脳血管障害直後で、意識がないような場合、現代医薬が優先されます。
 再発の可能性がなくなり、自分で食事ができ、誤飲しない状態なら、漢方療法は現代療法と同等か、それ以上の効果があり、積極的に使用して良いと考えられています。
 漢方療法では、血圧降下作用、脂質代謝改善作用など、脳血管障害の危険因子を改善することができます。後遺症としての興奮、頭痛、頭重、肩凝り、めまいなどの症状も、軽減する作用があります。

体力のある人
大柴胡湯
(だいさいことう)
肥満、高血圧、便秘、胸脇苦満(きょうきょうくまん)などの症状がある場合。

続名湯
(ぞくめいとう)

四肢麻痺、知覚障害、高血圧などの症状がある場合。
黄連解毒湯
(おうれんげどくとう)
顔面紅潮、イライラ、不眠などの症状がある場合。
体力は普通〜ない人
八味地黄丸
(はちみじおうがん)
歩行障害、排尿障害。
釣藤散
(ちょうとうさん)
頭痛、めまいなどの症状がある場合。
抑肝散
(よくかんざん)
興奮しやすく、イライラしやすい人に。

脳血管障害・脳卒中のリハビリは?

後遺症の回復

 

イメージ画像 手足の麻痺やしびれと言った運動障害や感覚障害、言語障害、高次脳機能障害などが起こります。発症後数週間〜数ヶ月間に、傷付いた脳の自然回復に伴って軽減することもあります。しかし多くの患者さんでは、後遺症のため、日常生活動作、移動や歩行、コミュニケーションが以前のようにできなくなってしまいます。
 損なわれた機能を取り戻し、生活障害を克服するために、リハビリテーションを行います。障害されずに残っている機能を十分に生かし、できるだけ自立した質の高い生活を目指します。リハビリ専門医の下で、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がチームとなって障害に応じた訓練計画を立てます。
 理学療法士は、歩行の自立を目標にさまざまな訓練をします。作業療法士は、日常生活動作の自立を図るための訓練をします。言語聴覚士は、日常でのコミュニケーションができるように訓練し、嚥下障害を含む食事のトラブルに対する訓練をします。看護婦は、訓練で改善しつつある起居動作、歩行や日常生活動作を生活で生かせるように手助けします。

急性期のリハビリ

 

 廃用症候群の予防が目的で、理学療法士、看護婦が行います。
 自分で身体を動かせない場合、2時間〜3時間おきに身体を横向きの良肢位に変えることで床ずれを予防する、体位変換をします。麻痺側の関節の動きが、介助によっても制限される拘縮を予防するため、すべての関節の屈伸運動による関節可動域の維持に努めます。寝かせきりにせず、早期から座位、車椅子に移るなどの時間を設けるようにします。
 座位か車椅子で、食事を自力でとれるようにすることが目標になります。

回復期のリハビリ

 

 理学療法士、作業療法士のほか、必要に応じて言語聴覚士が行います。
 理学療法は、急性期に引き続いて、関節可動域訓練、筋力強化訓練、臥位から座位への訓練、車椅子への移動訓練、車椅子の自走訓練、歩行訓練を行い、自立歩行を目指します。
 麻痺が強い場合、杖やプラスチック製の下肢装具を使って、弱くなった部分を補強します。訓練中に、浮腫・むくみ、関節や筋肉の痛みがある場合、温熱や低周波などを使った物理療法を行います。
 作業療法は、食事、更衣、排泄、入浴の日常生活動作の自立を目指した訓練をします。利き手が麻痺した場合、麻痺の程度によって早期から利き手の変換訓練、片手での日常生活動作訓練を行います。
 日常生活動作を自立させるため、介護保険を利用し、段差の解消、手すりの設置、洋式トイレの設置、ベッドや車椅子の貸与など、自宅環境の整備が可能です。また、手には特殊加工したスプーンや食器などの自助具を処方することがあります。

維持期のリハビリ

 

 回復期のリハビリには訓練期間の制限があり、通常は3ヶ月〜6ヶ月です。
 回復期のリハビリ終了後、介護保険で訪問リハビリ、通所リハビリを受けることができます。
 維持期のリハビリは、回復期に獲得した歩行や日常生活動作を、維持していくためのものです。家に閉じこもらないように、介護保険サービスを活用してください。

失語症のリハビリ

 

 車椅子に座って、食事がとれるようになってから開始します。
 言語訓練の内容は、学歴、職歴、趣味などによって調節することもあります。多くの訓練がありますが、普通は患者さんと言語聴覚士が1対1で行います。
 患者さんの置かれている状況をよく理解した上での対応は、不安感、イライラ、抑うつ状態の解消にも繋がります。

構音障害のリハビリ

 

 頬筋、口唇筋、咽頭筋、舌筋など構語筋の運動訓練と、呼吸筋の訓練をします。重症の構音障害では、大きな声が出ない、声がかすれるなどの発声障害、嚥下障害がみられます。
 言葉が不明瞭で、声が小さくて聞き取れない場合、書字を併用したり、文字盤を使ってコミュニケーションをします。

失行症のリハビリ

 

 発病初期に見られることが多く、時間の経過に従って、消失していきます。
 失行症の治療やリハビリは、あまり行いません。

失認症のリハビリ

 

 失認症には、多くのタイプがあります。
 相貌失認は、家族を始めとして、良く知っている人の顔がわからなくなります。声を聞くことで、すぐに誰なのかわかります。
 情報を処理できるルートが必ずあるので、それを見付け出すことが、医師を始めとしたリハビリ担当者の仕事になります。残存機能を活用します。


脳血管障害・脳卒中かなと思ったら?

すぐに受診を

 

 軽い症状であっても、脳血管障害かもしれないと思ったら、1分1秒でも早く、専門医のいる病院へ行くことが重要です。
 家族に脳血管障害の危険因子を持つ高齢者がいたら、万が一の場合に備えて、どこの病院に行けばよいか決めておくと良いでしょう。
 救急車を要請することが理想です。どうしても自分で病院まで運ばなければいけない場合、患者さんが横になれる広さの車で、頭を進行方向に向け、身体を伸ばした状態にし、誰かが患者さんのそばに付き添って運ぶようにしてください。

早期治療が効果大

 

 脳血管障害は怖い病気ですが、1分1秒でも早く、施設が整った専門医のいる病院を受診すれば、死を免れたり、後遺症を軽くすることが可能です。
 治療開始までの時間が、その後の後遺症などに大きく関係してきます。発症後2時間以内に、専門医療機関に搬送することが求められているので、すぐに救急車の出動を要請してください。治療が受けられる医療機関は、その時の状況によって、救急隊員が決めてくれます。到着後、1時間以内に専門的治療が開始されることが理想です。


脳血管障害・脳卒中の応急手当は?

呼び掛け意識状態の確認

 

 医師や救急車が来るまでに、適切な手当てを行うことも重要です。手当てをせずに放置したり、誤った手当てをすると、症状が悪化してしまうことがありるので、本人の名前を呼んだり、話し掛けたりして、意識状態を確認して病状を把握してください。
 意識の有無を確かめるために、身体や頭部をゆすったりしないようにしてください。症状を悪化させてしまうことがあります。

軽症 呼び掛けると返事をし、会話できるなら、意識がしっかりしていると判断できます。
軽症と考えて良いでしょう。

中等症

呼び掛けると返事はしても、すぐにうとうとと眠ってしまう傾眠傾向がみられたら、意識はあってもかなり悪い状態です。
さらに悪化する可能性もあるので、すぐに入院が必要です。
重症 呼び掛けても返事がなく、皮膚をつねっても反応が鈍い。いびきをかいている昏睡状態は、もっとも悪い状態です。
生命に関わる危険性が高く、すぐに治療が必要な状態です。

中等症・重症の応急手当

 

イメージ画像 救急車を呼び、1分1秒でも早く脳卒中の専門医のいる病院に搬送することが重要ですが、救急隊員が来るまでの間、できることはやっておきましょう。

 

安全に寝かせられる場所へ運ぶ

   

 トイレ、風呂場、玄関、道路などで倒れているのを発見したら、安全に寝かせられる場所へ運んでください。
 一人で運ぼうとせず、周囲の人に応援を頼み、病人の身体を横にまっすぐにした状態で抱え上げるようにして運びます。気道閉塞や、脳ヘルニアを助長しないように、首が前方に曲がってうなずいた状態にならないように、頭と首の下をしっかりと支え、真っ直ぐに伸ばした状態で運びます。
 以前なら、脳血管障害で倒れた時は、その場を動かしてはいけないとされていましたが、現在では運ぶことによって症状が悪化することはないと考えられています。

 

やや硬めの布団に肩枕をして寝かせる

   

 室内に運んだら、身体が沈まない程度の硬さの布団に、仰向けに寝かせ、衣服を緩めます。
 意識状態が悪いと、呼吸困難になることがあります。いびきをかいていたり、喉をゼーゼー言わせていたら、呼吸が苦しい証拠です。
 折り畳んだバスタオルなどを方の下に充て、喉を後ろに反らせると、呼吸が楽になります。

 

嘔吐に備えて顔は横向き

   

 発症時に嘔吐をともなうことも多く、意識状態が悪いと、吐いた物を気管に詰まらせて窒息してしまうことがあります。
 嘔吐の有無にかかわらず、顔を横向きにさせます。
 入れ歯が喉に詰まることもあるので、外すことができる入れ歯は、外しておきましょう。

 

痙攣していたら柔らかい物を口に噛ませる

   

 痙攣を起こし、歯を食いしばっている場合、舌や唇を噛んでしまうことがあります。
 折り畳んだハンカチなどを、奥歯に噛ませます。どうしても口が開かない場合、無理にこじ開けて噛ませる必要はありません。

 

尿失禁に備え腰の下にビニールを敷く

   

 意識状態が悪い場合、尿を漏らしてしまうことがあります。
 尿失禁に備え、腰の下にビニールなどを敷いておきます。

 

部屋に直射日光が入らないようにする

   

 直射日光が当たったり、風通しが悪く暑い部屋では、脱水状態になります。
 部屋に直射日光が当たらないように、カーテンなどで遮光します。

軽症の応急手当

 

 心を落ち着かせてあげることが、重要になります。
 不安になって興奮していたり、動き回ろうとしたり、暴れたりする時は、子供をあやすように言葉を掛けて、落ち着かせます。
 救急車や医師へ連絡済みであることを伝えれば、心が落ち着くことが多いです。

 

応急手当の基本は同じ

   

 軽症の場合も、中等症〜重症の応急手当と同じです。
 一人で歩けても、絶対に歩かせてはいけません。発症時は、安静にすることが大切です。トイレに行きたくなった場合、尿器や差し込み式便器を使うか、おむつを使うようにしてください。
 飲み物を欲しがっても、水を含ませるか、唇を濡らす程度にします。食べ物も厳禁です。一刻も早く病院へ搬送してください。

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