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 胃ガン
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胃ガンの概要は?
早期ガンのおもな症状
  ほとんど自覚症状なし
進行ガンのおもな症状
  食欲不振
悪心
体重減少
腹水
腫瘤触知
食物の好き嫌いが生じる
  (発生部位によっては、無症状の場合もある)
  (陥凹型のガンでは、空腹時の痛み、胸やけなど、潰瘍症状を訴えることもある)
早期ガンに似ている病気
  びらん
胃・十二指腸潰瘍
胃ポリープ
異型上皮巣
胃粘膜下腫瘍
進行ガンに似ている病気
  巨大潰瘍
胃肉腫(悪性リンパ腫や平滑筋肉腫)
起こりやすい合併症
  通過障害(嘔吐)
出血(吐血、下血、貧血)
穿孔(腹膜炎症状)
▼ 他の臓器に転移、または浸潤した場合 ▼
腸閉塞
黄疸
呼吸困難
腰痛

胃ガンってどんな病気?
死亡率の高い癌
  イメージ画像 胃には、良性から悪性まで、多様な腫瘍が発生します。問題となる悪性腫瘍の約95%は胃ガンです。その他では、リンパ腫や消化管間質腫瘍(GIST)などが代表的な胃の腫瘍です。
 胃壁の一番内側の粘膜内の細胞から発生し、数十マイクロメートルの1つの細胞から始まるとされています。
 胃の悪性新生物の95%を占める粘膜由来(ねんまくゆらい)の上皮性(じょうひせい)の悪性腫瘍です。日本人では、肺ガンに次いで、死亡率の高いガンです。
 男女比は2:1で、男性に多く発症します。発症のピークは、男女ともに60代です。
早期発見されやすい
   ガンの深達度(深さ、胃ガンでは漿膜側への広がり)によって、早期ガンと、進行ガンとに分類されます。胃壁の外に向かって徐々に深く、大きくなり、それにともなって転移しやすくなります。
 早期胃ガンは、大きさ、リンパ節への転移の有無に関係なく、深達度が粘膜内か粘膜下層までに留まるものと定義されています。
 進行ガンだからと言って、必ずしも末期ガンであるわけではありません。
 日本の胃ガン検診は、世界的に見ても早期発見の技術、手術成績は優れています。最近では有効な抗ガン剤の開発もあり、胃ガンの治癒率は改善しています。
高齢者の場合
   胃ガンは男性に多くみられ、胃の出口付近にできる隆起型の高分化腺ガンで、ゆっくり進行するタイプのガンです。胃の表面にある粘膜が薄くなる萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)を母地として発症します。

胃ガンの原因は?
環境的な原因
  イメージ画像 胃ガンの発生原因は、環境因子の影響が強いと考えられています。
犯人はピロリ菌
   最近になって、ピロリ菌(リコバクター・ピロリ、HP)と呼ばれる細菌が胃の中に住み付いて、胃ガンの原因になっていることが判明しました。
 1994年、ピロリ菌は国際ガン研究機関によって「確実は発ガン因子」に分類されました。
 ピロリ菌によって慢性の炎症が起こり、慢性萎縮性胃炎(まんせいいしゅくせいいえん)を経て、腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)と呼ばれる状態になります。この状態が、胃ガンの発生母地になると考えられています。
多くの保菌者がいるピロリ菌
   ピロリ菌は、50歳以上の日本人の約80%が保有しています。
 Hp陽性の患者さんで、粘膜の萎縮の強い人は、委縮のない人に比べて5倍も胃ガンを発症しやすくなります。Hp陽性の患者さんで腸上皮化生の見られる人は、腸上皮化生のない人に比べて6倍も胃ガンを発症しやすくなります。
 Hp陽性の人は胃ガンになる確率は、0.4%しかありません。
 ピロリ菌感染だけで胃ガンになるわけではなく、ピロリ菌によって萎縮性胃炎が進行した頃に、様々な発ガン因子が積み重なり、胃ガンが発症すると考えられています。
遺伝子の活動
   ガンに進行する過程で、ガン細胞を作る方向に働くガン遺伝子の活性化、ガンを抑えるガン抑制遺伝子の不活性化が起こっています。
食生活
   胃ガンの発生は、食生活と関係していると考えられています。
 タバコ、高塩分食、魚や肉の焦げは、発ガン促進因子と考えられています。
 緑黄色野菜に含まれるビタミンA、ビタミンC、カロチンは、発ガン抑制因子と考えられています。
胃潰瘍やポリープとの関係
   胃ガンと胃潰瘍は、まったく別の病気だと考えられています。
 胃ガンも胃潰瘍も、ピロリ菌感染が原因ですが、十二指腸潰瘍の患者さんには、胃ガンができないことが知られています。
 胃ポリープの一部の腺腫性ポリープは、前ガン病変と考えられていますが、ガン化率はそれほど高くありません。

胃ガンの症状は?
自覚症状がない
  イメージ画像 胃ガンには、特有の自覚症状はありません。
 早期胃ガンの多くは無症状です。早期胃ガンに合併した潰瘍による痛み、出血、胃部不快感などは、胃炎や胃潰瘍の症状と同じです。胃は内腔が広い臓器のため、ガンがかなり大きくならないと症状が現れない傾向があります。
 上腹部痛、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、食欲不振がきっかけで、エックス線造影検査、内視鏡検査を行って、偶然に発見されることが多いです。
進行ガンの場合
   進行ガンになると、体重減少、下血や吐血などの消化管の出血(タール便)などが見られます。
 そのほか、食事が通りにくい、胃痛、胃重圧感、体重減少、貧血など、多彩です。味覚異常、胸やけ、ゲップ、口臭、吐き気など、他の胃腸の病気でみられるものもあります。
 触診では、上腹部にデコボコの硬い腫瘤(しゅりゅう)を触れることがあります。
 腹水が貯まったり、体表にリンパ節が触れるような場合、ガンが全身に広がっていることを示しています。このような場合、手術の対象にはなりません。
転移している場合
   肝臓、肺、骨、脳などの臓器に転移すると、転移した臓器や程度によって、さまざまな症状が現れます。

スキルス性胃ガンってどんな病気?
女性に多く発症年齢が低い
  イメージ画像 胃ガンは病理学的には、大部分が腺管構造をとって胃の内壁に現れる分化型腺ガンに分類されます。
 一部の胃ガンは腺管構造を作らず、細胞がバラバラになって胃粘膜の下に広がります。細胞の種類としては、病理学的に低分化腺ガン、印環細胞ガンなどに分類されます。強い線維化をともなって胃壁が硬くなり、胃の弾力性が失われます。
 こうしたタイプの胃ガンを「スキルス性胃ガン」と呼びます。胃ガン全体の約9%を占めます。スキルス性胃ガンとボルマン4型胃ガンは、ほぼ同じ意味です。
 スキルス性胃ガンの特徴は、男女比は2:3で女性に多く、発症年齢は他の胃ガンに比べて3歳〜4歳ほど若くなります。特に女性では、若くしてスキルス性胃ガンを発症することが多いです。
初期では診断が難しい
   進行したスキルス性胃ガンは、エックス線造影検査、内視鏡検査で容易に診断することができます。
 胃の一部に病変が限られている初期のスキルス性胃ガンは、胃の粘膜面の変化が乏しく、内視鏡の生検による診断が偽陰性になる可能性もあるため、注意が必要になります。
 若い女性で症状が続く場合、繰り返し検査を受けること、セカンドオピニオンに聞くことも大切になります。
進行が早く有効な治療法がない
   エックス線検査や内視鏡検査で早期診断が困難なこと、進行が早く高い確率で腹膜へ転移するため、切除で治る可能性が低く、有効な抗ガン剤も開発されていないなどの問題があります。
 患者さんの70%は腹水貯留や腸管閉塞などガン性腹膜炎が原因で亡くなってしまいます。切除できても、5年生存率は10%程度で、予後は不良です。
 分化型腺ガンとは異なり、腸上皮化生粘膜ではなく、胃の固有粘膜から発生することがわかり、エストロゲンの関与、スキルス性胃ガンに特有な遺伝子変化も解明されていますが、発症の詳しい原因は不明です。ピロリ菌の関与は、分化型腺ガンより低いものの、関連性があると考えられています。
 早期発見が困難で、手術だけで完全に除去できる可能性も低いため、多くの集学的治療、実験的治療が試みられています。しかし現在では、スキルス性胃ガンに対する有効な治療法はありません。

胃ガンの診断は?
バリウム検査から内視鏡検査へ
  イメージ画像 胃ガンの検査といえば、バリウムが有名です。バリウムによる胃の二重造影法は、日本で開発された診断方法です。胃ガンの診断の確立に大きな貢献をしてきました。
 現在では、電子スコープの普及、内視鏡の細径化が進んだため、組織の採取も可能な内視鏡検査が主流になっています。最近では、鼻を通して行う経鼻胃内視鏡が導入され、内視鏡挿入辞の違和感を軽減する試みがされています。
 高齢者では、バリウムを飲むと検査後の便秘の問題があるため、内視鏡検査が優先されます。
内視鏡による生検
   良性、悪性の最終診断は、内視鏡によって組織を採取して生検し、病理医による組織診断によって決定されます。
 胃ガンは病理学的には、大部分が正常な胃粘膜構造と似た分化型腺ガンに分類されます。
 病理診断は、良性か悪性かの質的な診断だけであり、病理診断によってガンの進行度の病期を決定することはできません。
病期、ステージ
   あらゆるガンの治療方法は、病期(ステージ)によって決まります。
 病期はガンの深達度と広がりの程度によって、T期〜W期に大別されます。深達度とリンパ節への転移に応じて、T期はTAとTBに分類されます。V期は、VAとVBに分類されます。
 ガンの深達度を評価するためには、内視鏡による肉眼初見、超音波内視鏡が有効です。
 胃外への病気の広がり、リンパ節転移や他臓器転移の有無を知るためには、CTを行います。
腫瘍マーカー
   血液検査による胃ガン検診では、血清ペプシノゲン値を測定し、分化型ガンの高危険群である萎縮性胃炎の患者さんを見付け、精密検査する方法があります。
 腫瘍マーカーは、胃ガンではCEAやCA19-9などが用いられます。
 全例で陽性になるわけではなく、早期診断には無効でもあるため、再発予測など進行ガンの術後の経過観察に使用されます。
 現在では、早期ガンのスクリーニングに有効なマーカーはありません。
その他の検査
   胃ガンの広がりを調べる検査としては、腹部超音波検査、胸部・腹部CT、注腸検査などがあります。
 他の臓器に転移していないか調べるために、超音波検査、CTなどが追加されます。早期胃ガンの場合、内視鏡による切除が可能か調べるため、超音波内視鏡検査が追加されることもあります。

胃ガンの進行度に応じた治療法(胃ガン治療ガイドライン)
胃ガンのリンパ節転移 N0
リンパ節転移がない
N1
胃に接したリンパ節に転移がある
N2
胃を養う血管に沿ったリンパ節に転移がある
N3
さらに遠くのリンパ節に転移がある
胃ガンの壁深達度
T1、M
胃の粘膜に限局している
ステージTA ステージTB ステージU ステージW
分化型で2cm以下(潰瘍なし)なら内視鏡で粘膜切除
それ以外は縮小した胃切除術(リンパ節郭清一部省略、神経、胃の出口、大網などは残す)
2cm以下なら縮小した胃切除術(リンパ節郭清一部省略、神経、胃の出口、大網などは残す)
それ以外は普通の胃切除術
普通の胃切除術 拡大手術
緩和手術(ガンによる症状を改善する手術)
化学療法
放射線療法
緩和医療
T1、SM
胃の粘膜下層に達している
ステージTA
縮小した胃切除術(リンパ節郭清一部省略、神経、胃の出口、大網などは残す)
T2
胃の外側表面にガンが出ていない
筋層あるいは漿膜下層まで
ステージTB ステージU ステージVA
普通の胃切除術 普通の胃切除術 普通の胃切除術
T3
漿膜を超えて胃の表面に出ている
ステージU ステージVA ステージVB
普通の胃切除術 普通の胃切除術 普通の胃切除術
T4
胃の表面に出ている
他の臓器にもガンが続いている
ステージVA ステージVB ステージW
拡大手術(胃以外の臓器も切除) 拡大手術(胃以外の臓器も切除)
肝臓・肺・腹膜など遠くに転移している ステージW ステージW

胃ガンの治療法は?
ガイドラインの制定
  イメージ画像 2004年、日本胃癌学会から病期に応じた標準治療のガイドラインが作成され、一般公開されています。
 ステージTA期に対する内視鏡的粘膜切除術は、患者さんへの肉体的負担が少ないこと、胃の機能が温存できること、入院期間が短いことで、日本では積極的に行われています。
内視鏡手術の進歩
   現在では、ESDと呼ばれる内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)という手術が広く行われるようになっています。
 大きな病変をひと塊で切除できる時代になっています。
腹腔鏡手術
   最近では、小さな傷から腹部に内視鏡(腹腔鏡)を挿入し、胃切除・リンパ節郭清を行う腹腔鏡手術も普及しています。
外科手術
   胃の2/3から、場合によっては胃のすべてを切除する手術が標準とされてきましたが、最近では治療後の生活の質(QOL)を保つため、切除範囲をなるべく小さくする努力がされています。
 切除した胃は、元に戻ることはありませんが、手術の際、胃切除後に残った胃や小腸を用いて、食物の通り道を作り直す再建を行うことができます。
 ガンが転移しやすいリンパ節を広範囲に切除することが推奨されています。
 広範囲の切除では、体力の消耗、肺炎などの術後合併症、入院の長期化などの問題があります。
症状改善のための手術
   根治不可能な状態でも、症状を改善するための手術が行われることがあります。
 食物の通過障害に対するバイパス手術や、出血に対する胃切除術などが行われることがあります。
手術後の療養
   手術直後は、口から飲食物を摂ることができません。点滴で栄養を補います。
 飲水・摂食開始は手術方法によって異なりますが、術後3日目〜1週間くらいです。水分から始まり、流動食から徐々に普通の食事へと練習していきます。
 胃を切除した後は、1回に摂れる食事量が減少するため、当初は1日5回〜6回に分けて食事をする必要があります。徐々に1回の食事量を増やしていき、普通の人と同じように食事できるようになります。
 手術後の抜糸を行い、身体に入っていた排液管などが取れると、入浴も可能になり、退院間近になります。手術後の食事の練習、社会復帰は個人差があるので、自分のペースで行ってください。
抗ガン剤の効果
   広い範囲に転移を起こしているなど、手術不可能な胃ガンに対しては、抗ガン剤治療が行われます。新規抗ガン剤の林床導入によって、抗ガン剤を使用しない対症療法との比較試験の結果、明らかな延命効果が証明されています。
 生存期間中央値が抗ガン剤を使用しない場合は3ヶ月〜4ヶ月であるのに対し、抗ガン剤を使用することで10ヶ月に延びています。
 TS-1を含めて塩酸イリノテカン、ドセタキセル水和物、パクリタキセルなどの薬剤は、従来の抗がん剤に比較して効果が良く、積極的に使用されています。新規薬剤の開発もすすめられています。
 切除したガン細胞を用いた抗ガン剤感受性試験という方法の有用性が多く報告されています。
 W期では、最終的な根治は不可能なのが現状です。具体的な薬剤の選択、投与方法に関しては、現在も研究段階にあり、経験豊富な医師と施設のもとで治療が進められています。
放射線治療
   欧米では胃ガンの標準治療とされている放射線治療は、日本では有用性が疑問視されています。
 温熱療法も、十分な効果を上げていません。
セカンドオピニオンの活用
   セカンドオピニオンを積極的に聞くことも大切です。
 手術不能症例に対して、さまざまな代替医療、民間療法が普及しています。多くは科学的根拠に乏しいもので、こうした治療法は十分な説明を受けて、納得してから受けるようにしてください。
治療成績の改善
   胃ガン全体の5年生存率は、1963年〜1969年の統計では44%でした。
 1979年〜1990年の統計では72%で、明らかに改善されています。
 1996年の統計では、病期別の5年生存率は、ステージT期で92%、ステージU期で77%、ステージV期で46%、ステージW期で8%です。
 現在では、さらに改善されていると考えられます。
治療法ごとの治療成績
   治癒切除例の5年生存率は88%、非治癒切除例の5年生存率は11%です。
 切除不能例の5年生存率は2%〜3%と不良で、完治は困難です。
 内視鏡的切除例の5年生存率は、対象がステージTA期に限られていることから、80%〜95%で外科切除と同等に良好です。
ピロリ菌との関係
   胃潰瘍、十二指腸潰瘍に対しては、ピロリ菌の除菌療法が標準治療となっています。
 ピロリ菌の除菌によって、胃ガンの発生が抑えられるかどうかは、研究が進められています。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
内視鏡的粘膜切除術の開発
  イメージ画像 1980年代に登場した内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、診断のための切除から、根治のための切除へと、内視鏡治療の分野に大きな変革をもたらしました。
 安全で簡便な多くのEMR手技が開発され、当初は1cm以下の小さな病変のみが対象だったものの、大きな病変に対しても施行されるようになりました。技術的な限界から、1cmを超える病変を確実に一括切除することは困難で、分割切除が許容されていました。しかし、分割切除後に約12%の局所再発があることがわかってきました。
内視鏡的粘膜下層剥離術の開発
   1998年、ITナイフ(絶縁チップ)を用いた内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が林床応用されるようになりました。一括切除率が飛躍的に上昇したことから、早期胃ガンの約50%は内視鏡での切除による根治が可能になりました。
 2006年、診療報酬改定によって、胃の早期悪性腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術が保険適応となり、社会的にも認知されるようになりました。
治療法の選択
   内視鏡的切除が外科手術と大きく異なるのは、リンパ節郭清が不可能なため、根治できる病変はリンパ節転移がないことです。手術前に早期胃ガンのリンパ節転移の有無を正確に診断することはできません。
 切除後にガンの深さである深達度、リンパ管や静脈へのガンの浸潤の脈管侵襲の有無など、リンパ節転移に関連している因子を病理組織学的に検査します。検査結果によって、リンパ節転移の可能性が極めて低いガンは、リンパ節郭清の必要がない局所切除で根治可能なガンと判断します。
 根治するという視点から、切除できるか、根治できるかを、良く理解した上で治療方法を決定します。
リスク
   内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行う医師は、手術中の穿孔や出血などの偶発症の頻度は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)に比べて高くなるため、知識と対策も含め、内視鏡技術の習得が不可欠となります。内視鏡的粘膜下層剥離術は、技術的な煩雑さもあり、完成された手術ではなく、今後もより安全で簡便な手技の開発が望まれます。
 最終目標は根治することであり、術前検査、治療方針の決定、切除後の適切な判断が必要になります。
 「胃ガン治療ガイドライン」に基づいた治療適応の説明を受け、同意を得るインフォームドコンセントの過程で、治療方針が選択されていきます。

胃ガンかなと思ったら?
消化器専門医へ受診を
  イメージ画像 体重の減少、消化管の出血がみられたら、すぐに近くの消化器専門医を受診するようにしてください。
 初診は、内科や外科でも大丈夫です。
 医師の判断に従って、検査を受けるようにしてください。何らかの上腹部症状が続く場合、内視鏡検査を受けることを勧められます。
 胃ガンによる上腹部の症状は、胃潰瘍と異なり、食事とは無関係に起こります。
40歳を過ぎたら定期健診を
   無症状の場合でも、40歳を超えたら、内視鏡検査やエックス線検査による健康診断を定期的に行うことが、早期発見に繋がります。
 自覚症状のない早期に発見された患者さんの5年生存率は97%で、胃ガンは早く見付ければほぼ完治できる病気となっています。発見が早ければ早いほど、身体への負担が少ない治療で治癒が期待できます。
胃ガンと告知されたら
  術前の診断が早期胃ガン、特に粘膜に限局したガンである可能性が高いか?
  生検による組織型が、分化型ガンであるか?
  病変の大きさは?
  病変の部位は?
  治療方法は内視鏡的切除なのか?腹腔鏡手術なのか?開腹手術なのか?
  内視鏡的切除の場合、一括切除できるのか?
  治療のリスクは?偶発症や、その対策は?
  内視鏡的切除後の病理組織結果は?深達度、組織型、大きさ、脈管侵襲の有無、潰瘍の有無、切除断端など。
  最終的根治度は?治癒切除、非治癒切除、判定不能。
  その後の治療方針は?外科手術が必要か?
手術後の後遺症
   胃を切除すると、小胃症状(腹部膨満、摂食不良、消化吸収障害、下痢)、胸やけを起こす逆流性食道炎、ダンピング症候群(めまい、頻脈、発汗など)などの術後後遺症がみられます。
 手術による消化管の癒着、暴飲暴食による腸閉塞、貧血、骨代謝異常(骨粗鬆症、骨軟化症)、胆石の発生などもみられます。
 外来での主治医と良く相談し、最適な社会復帰を目指してください。また、手術後の再発チェックや、後遺症対策のために定期的な外来受診をしてください。

胃ガンの予防法は?
食生活の改善
  イメージ画像 胃ガンは食生活の改善によって、ある程度予防できる病気です。バランスの取れた食生活を心がけることが大切です。
 魚や肉に含まれ、焦げると増加するニトロソアミンは、胃ガンの発がん性物質として知られています。塩分には、胃ガンの発生を促進する作用があることがわかっています。熱すぎる料理も良くないとされています。
 その他、過食、早食い、飲酒、喫煙などが危険因子とされています。
 緑黄色野菜、乳製品を多く食べることで、胃ガンの発生率が抑えられると言われています。ビタミンC、カロテノイド、ニンニク、緑茶などが、胃ガン予防因子として考えられています。
ピロリ菌の除去
   ピロリ菌感染者が胃ガンを発症する頻度は、約0.5%です。
 ピロリ菌を抗菌薬で除去することで、胃ガンの発症が抑えられることがわかったため、日本ヘリコバクター学会では除菌を勧めています。
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