そらいろネット > 家庭の医学 > 食中毒による病気 > 腸炎ビブリオ食中毒
腸炎ビブリオは、海水と淡水が混じり合う汽水域を中心に、沿岸の海水中に棲息するコレラ菌に似た細菌です。 おもに、腸炎ビブリオで汚染された海産魚介類を食べることによって発症する、食中毒タイプの急性胃腸炎です。水揚げ後の取り扱いの悪かったアジ、カレイ、イカ、イワシ、タイラガイ、バカガイ、シラス干しに付着して増殖します。
腸炎ビブリオによる感染症と食中毒の見分けは困難です。 食品の汚染が原因と疑われる場合や、複数の患者さんが出た場合は食中毒と考えます。感染原因が不明か、単発事例の場合は感染症と考えることが多いです。
腸炎ビブリオは、約3%の食塩が増殖に最適なため、好塩菌(こうえんきん)・好塩性菌(こうえんせいきん)と呼ばれています。 この性質のため、腸炎ビブリオは海水中に棲息しています。 腸炎ビブリオのほとんどのものは、ヒトに感染することはありません。ごく一部の細菌は、TDH/TRHと呼ばれる病原因子を産出する能力をもち、この菌に汚染された海産魚介類を食べることで、ヒトに病気を引き起こします。
魚介類の生食を好む日本人の食習慣のため、日本国内ではサルモネラ食中毒と並んで、よく発生する感染症です。夏季に多発し、集団発生が目立ちます。都会では子供に少なく、大人に多い病気です。 腸炎ビブリオは、1950年、大阪府下で発生したシラス食中毒事件の際、日本で発見されました。
さまざまなタイプの下痢と、上腹部の腹痛が必ず発症します。嘔吐や発熱をともなうこともあります。 腸炎ビブリオ腸炎では、ときに血便もみられます。カンピロバクター食中毒や、赤痢と誤診されてしまうこともあります。 ほかの腸管感染症・食中毒に比べて、病気の初期は重症感が強い傾向があります。重症例では腹痛が激しく、ときに穿孔性腹膜炎(せんこうせいふくまくえん)と間違えられることもあり、ショックに陥って死亡する症例も報告されています。
夏季に、大人が下痢や腹痛を訴え、海産魚介類(とくに生のもの)を10時間〜30時間前に食べていれば、腸炎ビブリオ食中毒の疑いが濃厚です。 腸炎ビブリオの潜伏期間はとても短く、10時間〜30時間です。腸炎ビブリオの分裂速度が他の細菌類に比べてきわめて速いため、潜伏期が短くなります。
症状からほかの食中毒と区別するのは難しく、確定診断には、TCBS寒天培地など、腸炎ビブリオを分離しやすい培地で菌を検出します。 分離された菌がTDH/TRHの産出能力をもっているかどうかを調べることもあります。
対症療法が中心となりますが、下痢止め薬は使用しないほうがよいでしょう。 脱水症状には軽症では経口からの輸液、重症例では点滴での輸液を行ないます。 抗生物質は病期を短縮するといわれていますが、十分な根拠はありません。多くの場合、3日〜4日で自然治癒します。
一部の重症例を除けば多くの場合、数日で自然に快方へと向かいます。しかしまれに、死亡例の報告もあるので、十分な注意が必要です。 高齢者の場合、嘔吐や大量の下痢のため、脱水から急性循環不全を起こし、重症化することもあります。
数日で自然治癒する病気ではありますが、医療機関を受診するのが原則です。
脱水症の予防には注意が必要です。腸炎ビブリオ食中毒のおもな症状は下痢、発熱、嘔吐なので、いずれも体内の水分を失うことになります。市販のスポーツ飲料などで水分の補給を心がけ、脱水症に陥るのを防ぎましょう。 高齢者や幼児など体力のない人は、嘔吐物を間違って気管に吸い込んでしまう誤嚥(ごえん)に注意しましょう。
疑わしい食事をいっしょに食べた人には連絡をとり、同じような症状が出ていないか確かめることで、食中毒かどうかの診断に役立ちます。
海外での感染を除けば、夏季だけに多発する病気です。 したがって夏季には、魚類や貝類は加熱調理して食べるようにしましょう。生で食べるときは、真水でよく洗うか、酢で調理をします。
腸炎ビブリオが付着した野菜や漬け物を食べても発症します。 生の魚や貝を調理したあとの包丁やまな板は、よく洗ってから使いましょう。また、まな板の上にラップを敷いて調理するのも効果があります。